狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

全人類が見るべき映画/存在のない子供たち

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2018年のカンヌ国際映画祭審査員賞をとったレバノン映画「存在のない子供たち」
昨年、劇場公開時に見た時はホント、、凄ーい作品を見てしまったって感じでしばらく動けませんでした。。
本来ならこの作品は劇場で見るべき作品で、DVDだと悲惨な状況が続くところで思わず止めてしまったり、途中で見なくなったりするかもしれないのですが、映画館は逃げ場がないし、大画面でこの映像を見なくてはいけないので、、でも見終わったら絶対、見て良かったと思える作品なんですよね。
すべての人間に見てほしい、、というレベルの作品です。

レバノンを舞台に、貧民窟で両親と大勢の兄弟姉妹と暮らすゼインという少年の物語で、仲良しだった11歳の妹が無理やり中年男性に結婚されられたことをきっかけに家出し、放浪する先々で様々な事件に出会う瞬間をとらえた作品です。

胸に刺さる映画はたくさんありますが、この映画は胸に刺さるどころではなく、胸をえぐられ、振り回されるってくらい凄い作品です。
悲しいとか可哀想とか、そんな生半可なものじゃなくて、ただこの現実に目を背けるな!って言われているような気がしました。
この主人公の少年は泣いてる暇さえなく、目の前に押し寄せる現実に対処するのに精一杯で、考えてる時間なんて一切無いんですよね。
よく自分がいかに努力して成功したってことを得意気に言う人がいますが、それは状況が恵まれてただけで、どれだけ死ぬほど働いても、チャンスはおろか希望さえない場所って、世界中にいっぱいあるんですよね。
私も小さい息子がいるので、どうしても親目線でこの作品を見てしまうし、ホント、どうしようもなく、、ツライ作品です。

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全く希望が見えないのにこのゼインって少年はがんばってサバイブするんです!
どんな状況になっても、何とか生き残るんです!
助けてくれる大人もほとんどいなくて、何故みんな助けてあげないんだー!!って思うのですが、大人たちも生活がいっぱいいっぱいで、助けてあげたいけど助けてあげられないんですよね。
レバノンという国は、歴史的にもイスラエルとシリアに挟まれた国で大変でしたし、今も難民があふれかえって、人身売買も当たり前で、のうのうと暮らしてる我々日本人には、想像もつかない大変な場所だと思います。
しかも教育もままならないから倫理観がメチャクチャで、少年の妹が不幸な目にあう場面は、無知の恐ろしさをまざまざと感じさせられました。
でも世界の半分以上はこんな感じなんですよね。
犯罪はなくならないだろうし、秒単位で無残に人間が死んでいく。。

絶望的なストーリー...というか半分ドキュメンタリータッチで、これほど見るのにツラい映画なんて見たくない!と思うかもしれませんが、最後にちょっとだけ、わずかな希望の場面が出てきます。
いわゆるハッピーエンドってわけではなくて、全然些細なことですが、、その場面を見たら、爆涙してしまったんですよね。。
映画の間はツラくて涙さえ忘れてましたが、ちょっとしたことが幸せに感じる瞬間でした。
希望が全く見当たらない映画ですが、最後に少しだけプレゼント...って感じで、この監督の手腕、スゴイです。。

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ナディーン・ラバキー
さんという女性監督で、監督作の本数としてはオムニバスの一つも含め4作品と寡作な方ですが、どの作品もカンヌで賞を獲っていて、この作品もカンヌで審査員賞を獲っていて、まさにカンヌの申し子という監督です。
確かにこれだけエネルギッシュな作品ばかり撮っていたら、そんなに撮れませんよね。
この映画も弁護士役で監督自身が出演してますが、それ以外の役者は全てオーディションなどで選ばれた素人ばかりというのが凄いですね。
しかもその俳優、本人の状況をオーバーラップしたようなキャラクター設定がされていて、実際ゼインを助ける数少ない大人として登場するラヒルという難民役の女優さんは、撮影途中に不法移民として逮捕され、拘束されたそうなんです。
監督が保証人となって釈放されたらしいのですが、このエピソードひとつとっても、現実とフィクションが入り混じってますよね。

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主人公のゼイン役のゼイン・アル・ラフィーア君もシリア生まれで、シリア情勢の治安悪化によって教育を受けられなくなって、家族でレバノンにのがれた少年なんです。
生活が貧しいため10歳からスーパーマーケットの配達の仕事など多くの仕事で家計を助けていたそうです。
この映画の設定を地でいく生活をしてたんですね。
演技に説得力があるわけですね。
結局この映画の撮影後、ゼイン君は晴れてノルウェーに移住することができたそうです。
ホント、良かった!
ただこの目つき、、というかツラがまえが、撮影当時の状況が荒んでたからってのもあるでしょうが、カリスマの目ですよね。
ジェームス・ディーンとか、リバー・フェニックスとか、そういう若くして亡くなったカリスマたちと同じ目な気がします。
機会があったら、また役者をやってほしい逸材ですね。

映画は見る人の立場・状況によって、感じ方が違ってくると思いますが、この映画を見て何も感じない人がいたら、ちょっと信じられませんね、私は。
さすがに小さい子供には勧めませんが、中学生くらいなら内容も理解できると思うし、若い人だったら主人公の少年ゼインに重ねあわせて体験型として見てほしいですね。
自分たちがいかに恵まれてるかってことが凄く分かるし、こういう国を助けたいっていう人がいたら、行動に出てもいいし、そこまでいかなくてもチャリティに対して考えるだろうし、世界を知るという意味でも未来を背負う若い人達により多く見てもらいたい作品です。

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