狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

「JOKER」にも通じる恐ろしいコメディ映画の傑作/US(アス)

ここ数年、格差社会を描く映画が高く評価されていますが、エンターテイメントでそのテーマを扱っているという点で、「ジョーカー」「パラサイト」と並ぶ代表作であるジョーダン・ピール監督の「US」

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前作の「ゲットアウト」は、ブラックコメディの度が過ぎるとホラーになってしまうという新感覚の映画体験で、ドナルド・トランプが大統領になったことでラストシーンが変わったといういわくつきの映画でしたが、もしもっと悲劇的なラストで終わっていたら、もっとブラックコメディ度がアップしてたと思うと、そっちの方が見たかったぐらいです、、私は。
見終わってすぐに、新しい才能の出現に少し興奮したのを覚えています。

「US」は少女時代にトラウマ級の恐ろしい体験をした女性が大人になり、家族4人で夏休みを過ごす為に、子供時代に育った家をおとずれるのですが、そこで彼女の家族そっくりなドッペンゲルガーに襲われるといったストーリーです。

想像してた展開と全然違って、もっと大きいスケールの話で、ラストも「そう来るか!」という終わり方で、個人的にラストは前作より良かったですね。
あまりホラー映画を見ないので、このジャンルをそれほど熱く語れませんが、前作の「ゲットアウト」よりホラーマターというかホラー映画のオーソドックスな路線にもっと寄せてる作りになってる映画ですね。
「ゲットアウト」はホラーというよりサスペンスコメディって感じでしたが、「US」はサスペンスホラーといってもいいくらい、パッと見はコメディ要素は控えめになってます。

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主演とそのドッペンゲルガーの二役を演じたルピタ・ニョンゴが素晴らしいです。
特にドッペンゲルガーの方の狂った感じは良かったですね。
私が狂った演技が大好きってこともあるのですが、演じていて楽しかったんだろうなぁっていうのがスクリーンいっぱいに感じられましたね。

子役の二人の演技も良かったですね、特にお姉さんの方が。
いかにもホラーって感じの演技で容赦ない暴力描写でしたが、見ていて爽快感を味わえる、残虐っぷりでした。
お父さんのボンクラ加減がいい感じで家族を追い詰めてる感じが笑えましたね。
もしかして監督のお父さんがこんなボンクラオヤジだったんじゃないかって想像してしました。

アメリカの現在の格差社会の状況が表現されてるので、あまりわからなかったっていう感想の人もちらほらいるみたいですが、今のアメリカって、極論を言うと勝ちか負けの二択になってる気がしますね。
日本みたいに、わずかな額でも一応払ってくれる年金がないですからね。
アカデミー作品賞を受賞した「ムーンライト」はアメリカの現状が垣間見れた映画だと思います。

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主人公の家族はアメリカの一般的な家族という感じですが、その友人の白人家族はAIで管理された豪華な別荘をもってる。
ここでも差があるのですが、この映画にでてくるドッペルゲンガーは、現代アメリカの貧困層をあらわしてるキャラクターで、
彼らが裕福な白人を襲うシーンは、見る人が見るとちょっとしたカタルシスを感じるんじゃないでしょうか。

また、1980年代中盤におこった「ハンズ・アクロス・アメリカ」というムーブメントを知っていると、よりこの映画を理解できると思います。
1984・5年にイギリスでバンドエイド、アメリカでUSA for Africaといったチャリティソングの一大ムーブメントが起こりましたが、その流れのひとつに「ハンズ・アクロス・アメリカ」というのがあって、この映画の予告編などで流れていたドッペンゲルガーの家族が手をつないで立ってるシーンは「ハンズ・アクロス・アメリカ」へのオマージュになっているそうです。
この「ハンズ・アクロス・アメリカ」は、「We are the World」のようにアフリカの飢餓を救うためのメッセージソングではなく、アメリカ国内のホームレス・貧困問題を救うためのものだったらしくて、人と人とが手をつないでアメリカ大陸を人間の鎖でユナイトするっていうムーブメントだったそうです。
ジョーダン・ピール監督が子供の時にこの映像を見て「悪夢的な印象をもった」と語ってます。

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他のチャリティ運動と違って、参加者が10ドルをはらって手をつなぐというものらしくて、貧困層にしてみたら、何故手をつなぐのに10ドル払う必要があるのかということになるわけで、結局参加者が中産階級以上に限定されることで、一種宗教的で異様な感じのイメージで見られたらそうです。
確かに何万人の人たちが手をつないでいる光景なんて、ちょっと異様で怖いですよね。
特に子供のときにそれを見たら、ちょっとしたトラウマになるかもしれない光景ですね。

そんなイメージからインスパイアされた映画だけに、やっぱり一筋縄ではいかない展開でした。
「ゲットアウト」は人種差別を恐ろしいカタチで表現した作品でしたが、「US」はもっと根源的なアメリカの闇を描いた作品で、前作同様、練り上げられたストーリーで最後まで目が離せない展開になってます。
やっぱりジョーダン・ピール監督の作品はおもしろい!
私の中で信じられる映画作家のひとりにになりました。

ジョーダン・ピール監督はコメディアン出身の監督ですが、日本でいうと北野武監督にも通じる、一流のコメディアン独特の達観した世界観というか、ものスゴイななめ上から見た、小馬鹿にした目線で世界を見ている感じがしますね。
この映画の世界も怖いのですが、引いた目線で見るとコメディなんですよね。
一流の笑いを提供できる人って、鋭い知性をもっていないと不可能ですし、
そういう人たちから見れば、現代社会は笑いの宝庫なんじゃないでしょうか。

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ジョーダン・ピール監督は、「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督などとともに、これから数年の間、映画界に新しい旋風をまきおこす監督のひとりだと思ってます。
今、アメリカの音楽はほとんどがブラックミュージック中心で、ロックに代表される白人の影響力がほとんどなくなってますが、映画においてもあと何十年後かには、同じ景色になってる気がします。
2010年代は、ギレルモ・デル・トロアルフォンソ・キュアロンイニャリトゥ監督に代表されるヒスパニック系の監督たちが躍進したディケイドでしたが、アジアも韓国系やインド系、中国系など、もちろん日本人の監督の評価も高まってますし、トランプ大統領への反動もあるのでしょうが、どんどん非白人の映画人がこれまでと違った価値観の映画を作ってくれる予感がして、すごいワクワクしてます。
個人的な希望としてはジョーダン・ピール監督には、次はホラー以外の作品をとってほしい気がしますね。
意外と恋愛映画とか撮ったら面白いと思うんのですがいかがでしょう?

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