狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

アメリカの凄さをあらためて感じたHBOドラマ「ウォッチメン」

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アメリカで昨年の秋、話題になったドラマウォッチメン

ゲーム・オブ・スローンズなどを手掛けたアメリカのケーブルテレビ曲HBO全9話放送されましたが、現在Amazonプライム経由のスターチャンネルEXで配信中です。

ドラマ版を見る前に原作や2009年に公開された映画「ウォッチメンを見て、作品の世界観とか哲学にすっかりやられてしまいました。

MCU作品や「JOKER」などもそうですが、ダークナイト以降のアメコミ映画は社会性を見事に反映させたエンターテイメントが続々発表されてますが、このドラマシリーズはなかなかの決定打ですね。

このドラマが放送されてる同時期に映画では「JOKER」も公開されていたのが凄いですが、年初の「エンドゲーム」もあったり、2019年のアメリカはアメコミが普通のドラマ作品を凌駕した年といっても過言ではないでしょう。

映画の「JOKER」に引き込まれた方なら、絶対好きになるであろう作品だし、両方ともアメコミ原作というのがノイズになって見ない人がいたら、ほんと不幸なことですね。。

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ドラマ版のプロットをざっくりご紹介します。

1985年にオジマンディアスの陰謀によって、強制的な平和がもたらされたその後の世界。

ロバート・レッドフォードが大統領を務めるアメリカでは「レッドフォード基金」と呼ばれる、1921年に起きたタルサでの大虐殺の過ちを国として認め、犠牲者や遺族に賠償金を支払っていた。

しかしこれを「憎むべきもの」と位置付けていた、第7機兵隊と呼ばれる白人至上主義者たちの組織があった。

彼らは虐殺の舞台であったタルサの町で、元ウォッチメンロールシャッハのマスクを被り、少数民族や人種差別被害者を守る警察へ反発し、2016年のクリスマスイブに、40人の警官および家族を殺害・負傷させる「ホワイト・ナイト事件」を引き起こす。

その事件で生き残ったジャッド・クロフォード署長を中心としたタルサ警察と第7機兵隊との戦いを軸にストーリーは展開していきます。

時系列は現代ですが、映画「ウォッチメン」のその後の世界を描いており、アメリカがベトナム戦争に勝利ベトナムアメリカの州となっています。

ウォーターゲート事件も発覚せず、ニクソンが三期大統領を務めた後、ロバート・レッドフォードが長年、大統領をしている世界なんですよね。。何だそれ?

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まず、度肝を抜かれるのが第一話の冒頭5分で描かれる、1921年のタルサの大虐殺の再現シーンです。

映画デトロイトもそうですが、こんな凄惨な事件があったことに衝撃を受けること必至です。少年が映画館で見る黒人保安官が主人公のトーキー映画と対照的な、圧倒的な現実を見せつけられるシーンですが、1921年空爆までしてひとつの町を破壊するって異常すぎますよね。

これが現実に行われたってのを想像するとやるせないですし、当時の、、というかつい先日ジョージ・フロイドさんの事件があったばかりですが、今も根深く存在する一部の白人たちの妄想にはホント腹立ちますよね。

そして何より凄いのが、これをトランプ政権下のアメリカの放送局が作っているアメリカって国の凄さですね。

コロナウィルスの対応によって、ようやく無能な政権を批判する雰囲気ができる状態になった国に住むものにとって、この器のでかさはなんなんだって思います。

良くも悪くも冒頭部分だけでアメリカって国が表現されてますね。日本の映画やテレビが当事者として南京大虐殺を描いたようなものですから。。

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このドラマの原案と脚本を担当したデイモン・リンデロフは、原作の「ウォッチメン」で描かれているような、東西冷戦の緊張状態に相当するテーマを模索した結果、人種間の対立という構造に着眼したのは見事ですし、トランプ大統領になって一気に吹き出しアメリカ人の本音、とりわけ高齢者や貧しい白人層の不満が爆発してる現代のアメリカを、うまくテーマにとりこんでいる点が素晴らしいです。

白人と黒人の対立だけでなく、ベトナム人など多様な民族をまきこんだ展開に話をもっていこうとしてますが、この点については、我々黄色人種の目から見るとまだまだ差別的に描かれてますが。。

ストーリー展開だけでもわくわくさせられるドラマですが、それに関連した事件やサブストーリー的なものもかなり興味深く描かれていて、映画好きな人ほどハマるんじゃないでしょうか。

ばらまかれた伏線が5話くらいからスパークしはじめますが、それまでのエピソードもキャラクターを深く描いていくという点では全然退屈しないです。

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私が一番好きなエピソードは圧倒的に第6話です。

アメリカで最初にマスクをつけたヒーローであるフーデッド・ジャスティの誕生をめぐる話なのですが、このエピソードには詰め込めるられるだけ詰め込んだというくらいのメッセージが入っていて、製作者サイドの熱意が最も感じられたエピソードです。

原作「ウォッチメン」でも描かれてますが、ヒーローによって考え方が全然バラバラで、ヒーローになった過程が悲惨な人ほど正義感が強いのですが、利害を求めるヒーローには共感を得ないという、ツラい現実をつきつめられてますし、この回の物凄く深い闇を表現していました。

原作「ウォッチメン」に登場したヒーローたちも登場し、ウォッチメンといえば...というDr.マンハッタンもやはりキーとなるキャラクターとして登場しますし、シルク・スペクターもFBIとなって出てきます。

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みんな大好きロールシャッハはもちろん出てきませんが、二つの異なるアイコンとして登場します。

一つはレイシスト集団が象徴してロールシャッハのような覆面をかぶっていて、ロールシャッハ好きの人たちには大不評らしいですね。

もう一つのアイコンは、タルサ警察に所属するルッキングラスが、ロールシャッハの精神的な部分を引き継ぐキャラクターとして登場します。

今回のドラマでは一番おいしい役というか、愛されキャラになってる気がしますね。

ナイトオウルだけ出てきませんが、ナイトオウルがつくった乗り物はタルサ警察が使っていたから、それで納得してってことでしょうか?

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Dr.マンハッタンとともにウォッチメンの最重要キャラのひとりであるオジマンディアスが、今回、結構なメインキャラで登場しますね。

最初は、意味不明でコーヒーブレイク?って感じの登場ですが、物語後半でストーリーとリンクしていく展開となってます。

演じるのが名優ジェレミー・アイアンズなので、ひとクセもふたクセもあるオジマンディアスのキャラを、さらに濃ーいキャラにして、まさに狂気の天才を絵に描いたようなキャラクターにしているのはさすがですね。

個人的にこのドラマで一番好きなキャラがこの老いたオジマンディアスでしたね。

その他のメインキャストについてもですが、まず主役を演じるのは「ビール・ストリートの恋人たち」でオスカーを受賞したレジーナ・キングです。

「ビール・ストリートの恋人たち」は素晴らしい作品なので是非ご覧いただきたい作品です。

彼女が演技がうまいのは百も承知ですが、やっぱり今時のトップの俳優は基本的にアクションもできないとダメなんでしょうね。

マスク姿のシスター・ナイトに変身したキャラはなかなカッコいいです。

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そしてこの物語の重要人物のひとり、警察署長を演じるのがドン・ジョンソンです。

「ナイブズ・アウト」にも出てましたが、われらがマイアミバイス、歳をとってもセクシーですね。

先ほども言いましたがロールシャッハの精神性を継ぐキャラクター・ルッキングラスを演じるティム・ブレイク・ネルソンがいいですね。

一見しょぼくれた感じですが、主役のシスター・ナイトの相棒役でカッコいいって感じではないですが、味のある演技で共感できるキャラクターをうまく演じています。

ウィルを演じるルイス・ゴセット・ジュニアも、謎めいた老人キャラを渋く演じてますし、オジマンディアスの屋敷で従順に働くクローンを演じているトム・マイソンとサラ・ヴィッカーズはある意味一番大変だったんじゃないでしょうか。

二人でどれだけのテイクをとったんでしょうね。何十人といるクローンを二人で演じてるわけですから。しかも理不尽きわまれない扱いですし、、ま、笑えますが。

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そして音楽がカッコいいですね。

音楽を担当したのはナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーと、映画音楽における彼の右腕的存在であるアッティカス・ロスが担当しています。
個人的に地獄の黙示録におけるカーマイン・コッポラの当時の電子楽器を駆使した音像に共通する部分をかなり感じられました。

確かにウォッチメンのエゴイスト的な究極の選択のような思想は、地獄の黙示録のカーツ大佐に通じるものがあるし、そういった点で音楽を近づけたんじゃないかという印象を持ちました。

もともとナイン・インチ・ネイルズの音楽性自体「地獄の黙示録」的っていえば、そうなんですが。。

各ストーリーに出てくる音楽も、映画版のような大味な曲ではなく、すごくセンスを感じられる選曲で好感がもてます。

今回はドラマ版のウォッチメンについてざっくりご紹介しました。

ウォッチメンについて、もう一本記事を書いてますので、良かったらそちらもご覧ください。

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