狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

ニキータ/実にフランスらしい女性アクション映画の元祖

現在公開中の「ANNA」

女性暗殺者を主人公にしたこの作品は、バイオレンスアクションの現在形を見られる映画となっています。

昨今、女性を主人公にしたアクション映画が世界中で生み出されていますが、その原点と言える作品がニキータです。

ジョン・カサヴェテスが監督した「グロリア」やアカデミー作品賞をとった羊たちの沈黙も女性を主人公にしたアクションものとして秀逸な作品ですが、現在のバイオレンスアクション系の女性主人公の映画の原点は間違いなくこの「ニキータ」と言っても良いでしょう。

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その後のリュック・ベッソン映画の大きな2つの柱が生まれた作品でもあります。

女性を主人公にした映画、そしてアクションで魅せる映画。

しかし決定的にその後の彼の作品と違うのが、うやむやなラスト...ですね。

いかにもフランス映画っぽいエンディングで、アクション満載の映画でこういう終わり方をしてる作品は、ほとんど記憶にないですね。
彼の前の作品グランブルー」と同じく、一人の女と二人の男の関係を描いていますが、最近のリュック・ベッソンの映画では全くと言っていいほど見られなくなった濃密なドラマが「レオン」とこの「ニキータ」には存在します。

特に「ニキータ」の場合はひとりの女性の半生、、まではいきませんが人生の濃密な時間を描いていますし、暗殺者としての仕事の数が増えるのと反比例するかのように人間的感情が溢れ出しているところがいいですね。

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キューブリックフルメタル・ジャケットのように訓練編と実践編の2つのパートに構成されていて、この構造的見やすさとアクションでグイグイ押している作品ですが、ニキータという女性のもの凄く繊細でもろい人間性がどんどん浮き彫りになっていくストーリー展開は見事です。

主演のアンヌ・パリローは廃人同様のジャンキーからはじまり、狂乱のパンク娘、無邪気な女、スタイリッシュな殺し屋など、色んな顔のある主人公ニキータを、表情豊かに、そして繊細に演じています。

彼女の人間味溢れる魅力的なキャラクターが、全く別のタイプのふたりの男と絡むことにより、この映画に人々が惹きつけられる原動力となってます。

ニキータをスパイに仕立てたボブ役のチェッキー・カリョも好演してます。

基本クールな感じですが、ニキータに対する密かな想いを抱えながらスパイとして彼女に教育していく姿は、哀愁をおびており男心にグッときます。

そして、本作の最重要人物はこの男、ニキータの恋人マルコを演じるジャン・ユーグ・アングラードにつきると思います。

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前半の訓練パートも良いのですが、やはりマルコが登場してからの後半パートは、現在のスパイ映画でもかなりオマージュされるくらい秀逸ですし、これだけ派手なアクションが展開されるのにドラマ部分に心をもっていかれるのは、ジャン・ユーグ・アングラードの世界一のヤサ男演技があってこそだと思います。

彼の物腰の柔らかい、しなやかな演技は、狂気に満ちたこの作品世界でユートピア的存在になっていますし、自分の恋人が殺し屋だと知りながら、知らないふりして純粋に彼女を愛し、ただ彼女といる幸せを感じ刹那を生きる姿は、ただただ、、カッコいいです。

ラストのふたりの男たちが、かつて愛した女について語るシーンは、私の最も好きなラストシーンのひとつで、ジャン・ユーグ・アングラードが遠くを見つめながらタバコを吸うシーンはいつ見てもグッときます。

こんないいシーンを演出できるリュック・ベッソンはいったい何処へ行っちゃったんでしょう。。
ジャン・ユーグ・アングラード「ベティ・ブルー」でも強い個性を持つ女性を献身的に愛する男を演じていますが、彼の演技でワンランクアップする作品がこの頃多くあった気がします。
「フランスの石田純一」と言われていた時期が懐かしもあり、恥ずかしくもあり。。
90年前後のフランス映画界にはなくてはならない俳優の一人であったことに間違いはありません。

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ニキータ」はリアルタイムで劇場で見た作品ではありませんが、この当時の自分とオーバーラップさせて、深く心に残っている作品です。

「ANNA」はアクション映画と言い切っても良い作品ですが、「ニキータ」についてはアクションも当時としては凄かったですが、それ以上にドラマ性が強く、恋愛映画としても一級品ですので、単なるアクション映画として語られることには強い違和感を感じます。

初期のリュック・ベッソンの作品がこれだけ支持されるのは、もちろんアクションもかっこいいのですが、「ニキータ」や「レオン」のように濃密に描かれているドラマやキャラクター描写が人々の心に今でも突き刺さってるからではないでしょうか。

私も初期の印象が強いということもありリュック・ベッソンは今でも気になる映像作家ですが、今回の「ANNA」がドラマ部分は置いといて、作品としては面白い仕上がりになっていたことが嬉しかったです。

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