狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

サスペリア/個性派監督の手によって再び傑作となった名作ホラーのリメイク

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7月10日から公開する話題の映画「透明人間」。

次回から「透明人間」を見る前に見ておきたい作品をご紹介しますが、今回は昨今傑作が次々と生まれているホラー映画の中でも私の好きな作品をご紹介します。

2019年度に見た映画の中で個人的ベストワンの作品でもあるルカ・グァダニーノ監督「サスペリア」。

ルカグァダニーノ監督は「君の名前で僕を呼んで」の美しい映像が記憶に新しいですが、 今回は前作と一見180度方向転換したようなジャンルに挑んだ作品ですが、映像の美しさなど、 色んな部分で、彼の持ち味が発揮されたホラー映画というよりは、 アートホラーといった体裁の作品となってます。

デビッド・リンチキューブリックをはじめ、狂気の映画が得意な映画作家は確固たるスタイルがありますが、この作品からもグァダニーノ監督の色がビシビシ伝わってきます。

では私がこの映画のどこにハマったのかをあげていきましょう。

1 .空気感がたまらない

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まずこの映画全体を通して感じる居心地の悪さというか、不穏な空気感がたまりませんね。

私は映画というものは、ストーリーはそれほど重要なファクターではないと思っています。

もちろん話が面白いにこしたことはありませんが、好みの空気感の映画に出会うと、 途中からストーリーなんてどうでも良くなってしまいます。

この作品ですと、ダンサー達の館の色合いや、不穏さ、微妙に張り詰めた場の空気、 それらが私にとっての映画的快楽をすごく感じさせてくれます。

現実なら絶対、自分が足を踏み入れたくない場所だからこそ、映画でしか味わえない緊張感を感じてたまらないのです。

この作品は本来は映画館でこそ真価を発揮する作品ですので、家で鑑賞する時はできるだけ暗い部屋で大きな画面で見て欲しい作品です。

パソコンの小さな画面ではこの映画の空気感は全然伝わりませんし、スマホなんて論外です!

2 .オリジナル版と真逆なクールな色彩

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オリジナル版のサスペリアは赤が特に印象的で、ケバケバしい下世話な極彩色で、見てて疲れるレベルの色づかいでした。 そこがいいんですけどね。。

ホラー黎明期の作品ですので、まだホラー映画のフォーマットが確立されてなく、 自由な発想で作品をつくっていて、制作サイドのエネルギーがそのまま色にもあらわれているような作品でした。

グァダニーノ版はそれを意識してか、明らかにその逆の彩度を落としたクールな質感の映像です。 現代的といえばそれまでですが、この色味がオリジナル版のような「ザ・ホラー映画」的なものではなく、暗黒舞踏をフォーマットにしたアート映画としての雰囲気を上手く醸し出しています。

最後の血だらけの大団円シーンも、オリジナル版のようないかにも血のりというビカビカの赤ではなく、赤黒く哀愁を物語っているような色で、この映画で一番ファンタジックな場面にも関わらずリアルな血の色を使って対極にする事で、より悪魔的なおどろおどろしさと、文学的な世界観を同時に醸し出していて、 すごくカオティックなのに異常なまでのカタルシスを感じさせてくれるシーンでした。

このシーンの色表現は「アーティスト」としてのルカ・グァダニーノを痛烈に感じさせてくれます。

3 .ほどよいグロテスク表現

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当たり前ですがホラー映画において、怖いシーンというのは作品のアクセントになりキャッチーな部分になりますよね。

この作品では、骨が折れたり、それが突き出してきたりと、最初は目を覆いたくなりますが、 回を重ねて見ていくとその場面が快楽になるんですよね。

デヴィッド・リンチの作品にも言えますが、夜に一人で見ると怖いけど.....でも見たい!という どっちつかずで思わせぶりな感じがいいですね。

お化け屋敷的なびっくりさせるホラー映画の手法は、この作品にはほとんど見られず、 痛みというか見ていて辛くなるようなリアルな怖さがありました。

最後の大団円シーンはまた別ものですけど.....

4.トム・ヨークのミニマルな音楽

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レディオヘッドといえば映画音楽のジャンルですとジョニー・グリーンウッドの方が先にその地位を固めていますが、 当然のことながらトム・ヨーク現代の音楽界を代表する一人ですし、 彼の音楽性に共鳴できる作品に出会えたという意味で双方にとって良かったことでしょう。

ダンスシーンの音楽もあの当時のドイツの実験的音楽のようで印象的ですし、現代アートっぽい冷たくあやうい雰囲気の音がこの映画にマッチしていました。

ただ一番重要な場面で、ボーカル入りの曲かける?って思いましたが。。

あの場面の選曲はこの映画で唯一のダメでしたね、曲自体は好きですが。。

5.俳優

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スージー役のダコタ・ジョンソンはクールで途中から達観したような主人公を怪しく演じていましたし、 なんと言ってもダンスシーンは素晴らしかったですね。

彼女自身物凄く暗黒舞踏に惹かれたようですし、凄まじいくらい鬼気迫るダンスでした。

そして「みんな大好き」クロエ・グレース・モレッツも、ほぼ冒頭の部分だけでしたが、 狂気でいっちゃった感じの女の子を熱演していましたね。

「彼女に一体何が起こったんだ」という感じで、この作品をうまくストーリーラインにのせる リード的役割を果たしています。

そしてこの映画のキャストで一番の発見だった、主人公の一番の友人役を演じたミアゴス。

後半で魔女が乗り移ったかのような顔でダンスする場面は鬼気迫る演技で、過去作をチェックしたくなった女優でした。

そしてやはり、この映画は三役を演じたティルダ・スウィントンにつきますね。

近年はMCUにも出てますし、エンタメだろうがインディだろうが、 ありとあらゆる作品で圧倒的な演技力とその存在感を示していますが、私の中ではデレク・ジャーマンの映画でミューズを演じていた頃の印象が今でも強く、 あの頃の中性的な彼女の雰囲気を久しぶりに感じさせてくれた演技でしたね、先生役の方は。

彼女のもつ神秘的な雰囲気がうまく表現されていて、 久しぶりにティルダ・スウィントンを堪能出来た作品でした。

彼女は製作段階から関わっていて、彼女の熱量がこの作品を特別なものにした要員の最重要な部分のひとつだったと思います。

もちろん映画というのは基本、監督のものなんでしょうが、ティルダ・スウィントンが関わっていなければ、この神がかった映画の雰囲気にはならなかった気がします。

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この「サスペリア」という作品は、私が映画というものに求めてる映像の美しさ、漂う雰囲気、マッドな表現、セリフの美しさ、音楽の素晴らしさ、カタルシス、アート性、メッセージ性、エロス、すべてが詰まっていて、生涯ベストの中でも上位に入りそうな作品でした。

そして、それに負けず劣らず強烈な印象を植え付けた「ミッド・サマー」があり、そしてそれに続く「透明人間」ではどんな恐怖が待ち受けているのか.....楽しみです。

 

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