狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

暗数殺人/日本の伝統的ミステリーの雰囲気漂う傑作韓国映画

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韓国で起こった実在の事件をベースに制作され、韓国映画界の最高峰である青龍映画賞脚本賞を受賞した作品「暗数殺人」

韓国を代表する名優キム・ユンソクと「アシュラ」他幅広い映画で活躍するチュ・ジフンが火花を散らす犯罪サスペンス映画の秀作です。

麻薬捜査課のキム刑事は、ある事件で収監されたテオという男から7つの殺人事件を告白される。それを捜査するためキム刑事は殺人課に異動し、捜査を進め遺体を発見するが、テオは法廷で自白を翻す。キム刑事は田舎の派出所に異動されるが、それでもなお事件を追い続けるのであった.....というストーリーです。

キム・ユンソクとチュ・ジフンの顔合わせで犯罪物とあって、ついつい派手なアクションをイメージしがちですが、派手なシーンは一切なく、また韓国お得意のグロテスクなシーンもなく、捜査と尋問、そして法廷のみで構成された内容というのが意外でした。

一見地味なストーリーに感じられますが、そこは青龍映画賞脚本賞をとった作品だけあって、練りに練られた展開で、重厚な大人のエンターテイメントに仕上がっています。

この作品は法廷シーンが大きく二つありますが「ロッキー」に無理やり例えると、法廷のシーンが試合でその前の捜査がトレーニングシーンになっている.....といった感じでしょうか。

とにかく法廷シーンがこの作品のキモになっていることは間違いないくらい、一喜一憂するシーンとなっています。

日本の伝統的な推理サスペンスを彷彿とさせる展開で、ミステリーが好きな方や、重厚なドラマが好きな方には納得のいく作品となっています。

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日本映画が得意としていたジャンルで最近めっきり見なくなったものが、韓国で大ヒットしている点がなかなかツライですね。。何やってるんだろ、日本映画界は。。

この作品の主役のふたり、キム・ユンソクとチュ・ジフンは韓国の様々な映画祭で主演男優賞を受賞していますが、それだけこの二人の演技合戦によって進行していく作品なんですよね。

チュ・ジフンは一見キレやすく見えて、実は狡猾に行動する殺人鬼を激しく演じています。

それに対し、キム・ユンソク演じる刑事は極力感情を表に出さず、もくもくと捜査に打ち込む男で、この対照的なキャラクター描写が、この作品に魅力を与えている最大の要因です。

犯人であるチュ・ジフンは、回想シーンでは殺人を犯しますが、獄中で尋問するシーンがメインですので「羊たちの沈黙」に少しインスパイアされた展開となっています。

ポン・ジュノ監督の大傑作「殺人の追憶」のような犯人の顔があらわれない映画とは対照的に、犯人は確定しているのに、その決定的な証拠がなかなか見つからないというジレンマが、キム刑事だけでなく見ている観客にもそうさせている点が見事です。

観客が犯人のテオのゲームにのせられているといった感じで、イライラしながら映画を見ていくことになります。

結末は果たしてどうなるのか.....は確認してみてください。

今作のキム・ユンソク演じる刑事のキャラクターは終始淡々としていて、表情はほとんど変わりません。

私が見てきたキム・ユンソクの出演作はどこかでスイッチが入って凶暴になる役が多かったので、今回のキャラクターは意外でした。

しかし基本表情は変えず、体の演技でキャラクターの心情をあらわにしているところが素晴らしかったです。

キム・ユンソクはオーバーな演技というより、こういったちょっとした動きで感情を出すことが多いのですが、技量がないとなかなかこういった演技はできないですよね。

個人的にもソン・ガンホ、ファン・ジョンミンの次くらいに好きな韓国の俳優ですし、他の二人同様に彼の出演作も名作が多いですね。

血みどろノワール作品以外でも、こういった傑作がどんどん生まれている韓国映画界。

日本の映画界もこういった面白い大人のエンターテイメントをそろそろ真剣に制作してほしいものです。。

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