ハーフ・オブ・イット/古典の要素をうまく取り入れた現代青春恋愛劇の傑作
ここ数年「名作」を連発しているネットフリックスオリジナルで、またひとつ名作が誕生しました。
「ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから」。
監督であるアリス・ウーの実体験をベースにつくられた青春恋愛映画の傑作です。
アメリカの田舎町で暮らす中国系の女子高生エリー。彼女は内向的な性格のため気の合う友人がいないのだが、成績優秀なため同級生の論文の代筆をして小銭をかせいでいた。
ある日、アメフト部のポールからラブレターの代筆を頼まれるのだが、その相手は彼女が密かに恋心を抱いていたアスターという美少女であった。
家庭の事情で仕方なく代筆するはめになったエリーとポール、そしてアスターの複雑な三角関係を描いた現代における青春恋愛ドラマの傑作です。
人種とLGBTQをからめた恋愛映画といえば、アカデミー作品賞も受賞した傑作「ムーンライト」などがイメージされますが、この作品は「ムーンライト」のような切なさにプラスして、十代という特別な年代特有の甘酸っぱさ、清々しさが同居した青春映画としての要素の方が強い気がします。
エリーにラブレターの代筆だけでなく、デートの時の会話の練習もしていくうちに、ポールは知らず知らずエリーに惹かれていくのです。
友達として大切な存在であったエリーが、いつの間にかもっと特別な存在であることに気づいたポール.....そしてある時、彼がとった行動が思いもよらぬ展開になってしまう.....という、ハラハラドキドキの展開になっていきます。
ここで普通の恋愛ドラマなら結果オーライでカップルが誕生するところが、エリーがLGBTQであるため、より状況が複雑になっていくのです。
これはせつない!
LGBTQの視点で語られている作品ですが、ヘテロの人にも感じることができるせつなさが描かれている点が素晴らしいですね。
エリーもポールも苦しいのですが、アスターにとってもエリーは本当の自分を出せる唯一無二の存在になっていくのですが、事件に遭遇してしまいます。
あぁ、せつない!何と秀逸な脚本なのでしょう!
そして、この作品、いかにも現代的なドラマのように見えますが、実はフランスの有名な戯曲である「シラノ・ド・ベルジュラック」の要素をとりいれているのです。
醜い容姿の男シラノが美男の友人クリスチャンのために、ロクサーヌという美しい娘に手紙を送りつづける有名な悲劇ですね。
ジェラール・ドパルデュー主演で映画にもなっている作品ですが、確かに基本プロットが似ていますし、相手の女性が文面に惹かれていくという展開もそうですね。
デート中にもかかわらず、ショートメールで会話をかわすところは、現代的といえば現代的ですが、ちょっと個人的には無理あるかな、、と感じました。。
しかし「シラノ・ド・ベルジュラック」の物語の要素をうまく、現代の恋愛劇に変換したという点は見事です。
もしかすると現代の大人の恋愛を描くのに引用するのは無理があったかもしれませんが、十代というまだ未熟な年代だったために、うまく引用できたかもしれませんね。
色々な要素がうまく絡み合うことによって、この奇跡的な美しい青春恋愛劇が生まれたのではないでしょうか。
また、主人公が受ける差別的ないじめも、あえてそこを強調しすぎず、逆にエリーとポールの仲を深めていく要素に転換していましたね。
アメリカの田舎町なので、こういった差別的な部分もえぐっていくのかなと思いましたが、あくまで主役の三人に絞ったストーリーにしたことで、シンプルで感情移入しやすい名作が生まれた原因にもなりましたね。
スマホ以外に現代的なツールを強調せず、細かいディテールの部分を省いたことで、世代を超越し誰もが共感できるような青春恋愛劇になったのではないでしょうか。
途中「日の名残り」や「ベルリン・天使の詩」などが登場し、自分が二十代前半に触れていた作品があらわれたこともあり、完全に見ている間は「あの頃」の若者に帰っていました。
こういう気持ちをタイムトリップさせてくれる作品に出会えて嬉しかったですね。
でも思い出すとやっぱり恥ずかしので、あの頃には決して戻りたくはないですね。。。