WAVES(ウェイブス)/映像と音楽で語る青春映画の傑作
めくるめく映像、鮮やかな色彩、心に残る音楽、、話題のプレイリストムービー「WAVES」を見てきました。
映画は映像が美しければOKな自分にとって、はずれても良いくらいの感覚あまり期待せずに見に行きましたが、、ストーリーにヤラれました!名作です!
「 ムーンライト」が好きな方、絶対みるべき映画ですね。
厳しい父親のもと裕福な黒人家庭で育ったタイラーは、学校ではレスリング部のエースでみんなの人気者であった。しかし左肩に今すぐ手術しなければいけないほどの致命的な怪我が見つかる。彼はそのことを父親に隠したが、試合で左肩が壊れてしまう。自暴自棄になってる彼に、恋人から妊娠したことを報告をされ、それをめぐり二人の関係はこじれ破綻してしまう。彼女の愛を取り戻そうと、タイラーは彼女が参加してるパーティに向かうが、そこである事件が起きてしまう..... という展開です。
鑑賞した方のレビューをいろいろと見てみると、賛否がはっきりとわかれている映画なんですよね。
「否」の方の意見を見ると、、なんとなくわかる気もします。。
この作品は二部構成になっていて、前半が兄タイラーを中心に描いたパート、後半が妹エミリーを中心に描いたパートなのですが、 特に前半のタイラーのパートは、男性的な身勝手さ、思春期の男の子の幼稚さ、そういったものが目につく展開になっていて、女性の視点から見るとかなり気分悪く映るように描かれています。
生理がこないと言われたときの態度や、愛しているのに口論するとFワード使ったりなど、 その顛末でストーリーが動くのですが、かなり幼稚で、中二的な描き方をしていました。
がしかし.....男の立場から見ると、かなりリアルなんですよね。
見ていて恥ずかしくなるくらい、十代の男の子のリアルさがでています。
監督の実体験が元にしたキャラクターらしいのですが、確かに妹のエミリーより感情移入された描き方になってると感じました。
レビューで叩かれているタイラーの父も、強い父親像を求める人で、視点によって批判をあびてもおかしくない厳しく熱血漢のお父さんキャラなのですが、彼も息子のことを思っていろいろしてあげていることですし、黒人は白人の10倍働かないと成功できないんだということを体現し、今もがんばり続けている人ですからね。。
しかし結果、息子を追い込んでしまう状況にさせたのも彼の育て方に起因していますし、、ほんと、せつないです。
父親も息子もどちらの立場もわかる自分にとって、途中から見ていて辛かったですね。
そして後半の妹のパートですが、最初は雰囲気的にいじめられるのかな、、と思いながらハラハラ見ていましたが、 ネタバレになるのでこのへんで。
妹を演じたテイラー・ラッセルの演技が素晴らしかったです。
不幸を背負った思春期の少女を、すごく繊細な表情で演じていました。
彼女の存在は家族にとっても、この作品にとっても「癒し」的存在になっていましたね。
お母さんが実の母親でないこともあるのですが、兄にとっても、恋人にとっても、 まさかのお父さんにとっても母性的存在になっていました。
結局、男はいつまでたっても子供で、女性は生まれながらに母性をもった存在ということが語られてます、、その通りですね。
この映画はドキュメンタリータッチで撮られているわけではないのですが、妙にリアルな雰囲気を感じるんですよね。
「ムーンライト」を見た時と近い感触に思えるのですが、セリフを無理につめこんでいないというのもあって、日常にすごく近い目線で撮られている作品だと感じました。
アメリカのハイスクールのことなので、日本人にはわからないという意見もあるみたいですが、思春期の感覚というのは国や人種が違っても同じですし、主人公のキャラクターに共感できなくても、心の揺れ動きや、経験のなさからくる過ちなど、若気のいたりで話が展開していくので、日本人でも十分に共感できます。
恋人とのやりとりがほぼショートメールで、テキストを打ちながら、ちょっと考えて、、 一行消して、違う文章打って、、また考えて消して、、といった感じで コミュニケーションの感じが今風で、恋愛場面をリアルに描くにはスマホは必須なんだとあらためて感じました。
最後の方に登場するある人物が典型的なのですが、この作品、すごくキリスト教的な 「許し」を受け入れるという理念が根底にあるのを感じます。
少しずつボタンの掛け違いで、間違った方向に進んでしまっても、 最後には許すという寛容さが必要なんだってことが語られています。
父親が言う「彼も人間なんだ」というセリフがすごく胸に響きました。。
話題になっていた映像ですが、目がチカチカするといった否定的意見もききますが、違和感は全く感じませんでした。
自分がデザインの仕事をしているからということもありますが、もっと目が痛くなるような映像作品はいっぱいありますからね。
確かに映像は綺麗でした。
音楽もずっとかかりっぱなしというわけではなく、 トレント・レズナーとアッティカス・ロスのつくった劇伴の合間にポップスが流れるという感じです。
ケンドリック・ラマーの「Backseat Freestyle」やカニエ・ウエストの「I am a God」のように要所要所でキャラクターの心情を物語る曲が流れてくる構成です。
個人的には最後の方でレディオヘッドの「True Love Waits」が流れてくる場面はグッときました。
もしかすると、この映画で感動するのは大人になりきれてない証拠というか、 ナイーブなままうまく社会になじんでいない証拠なのかもしれませんね。
そういった諸々を含めて、予告編でずっと流れていて、本編でも印象的な場面で流れていたフランク・オーシャンの音楽を映像化すると、こんな作品になりました.....的な映画だった気もします。
音楽が好きな人は必ず見てほしい作品ですし、大人になりきれてない人が見たら結構、、、きます。
青春映画の傑作であり、生きることの難しさ、家族の結びつきなど人生のあらゆる面を描いた名作です。
十代の頃の気持ちに帰れる映画だと思います。。