【テネット公開記念】ダークナイト・トリロジーをふりかえる
9月に新作「テネット」の公開が控えているクリストファーノーラン。
彼がつくった バットマン三部作は「ダークナイト・トリロジー」と称され、特に第二作の「ダークナイト」は映画史においても重要なマスターピースとなっています。
クリストファーノーランといえば「インターステラー」という方もいると思いますが、 やはり彼の一番の代表作といえば「ダークナイト」と言えるでしょう。
「メメント」で注目浴び、そこで新しいバットマンシリーズを企画していたワーナーに声をかけられてスタートしたのがノーラン版のバットマン。
あらためて見直して色々と思うことがありましたので、8つのポイントでまとめてみました。
- ダークナイト・トリロジーの鑑賞の仕方
- クリストファー・ノーランが創り上げたシリアスな作品世界
- 歴史的怪演!ヒース・レジャーのつくりあげたジョーカー
- アメコミ映画の「格」を一気にあげた「ダークナイト」
- バットマン役クリスチャン・ベールの無駄遣い
- リブートの難しさが露骨に出た第一作
- 前作の凄さに押しつぶされた第三作
- 結局ノーランにバットマンはあわなかったのではないか?
ダークナイト・トリロジーの鑑賞の仕方
最初にふれておきますが「ダークナイト」はこの三部作の中では「別物」です。
これに異論がある方はほとんどいないと思いますが、「ダークナイト」は
★ジョーカーをヒース・レジャーが演じたこと
★シリアスな作品の雰囲気にそのキャラクターがハマったこと
★公開前にヒース・レジャーが亡くなって話題になったこと
などなど.....色々な奇跡が積み重なった作品ですので、コミック映画の中でも別格すぎで、「ダークナイト」はシリーズを通して見るのではなく、単品で見るべき作品です。
残りの「バットマン・ビギンズ」と「ダークナイト・ライジング」、これらについては必ずセットで見た方が良いでしょう。
「ダークナイト」はとばして「バットマン・ビギンズ」の次に「ダークナイト・ライジング」を見ると、前編・後編という見方ができて、コミック映画として納得できます。
公開順通りに「ダークナイト」の後に「ダークナイト・ライジング」を見ると、荒さが目立ち、それがノイズになって話に集中できないですので、1と3をセットで見ることをおすすめします。
公開時は私も「ダークナイト」のイメージがあったので「ダークナイト・ライジング」も期待して見に行きましたが、、、、、という感じでしたね。
でもこれは仕方ないです!
何故なら「ダークナイト・ライジング」にはヒース・レジャーが演じたジョーカーが出ていないですから。。
決して嫌いな映画というわけではないのですが、比較対象に「ダークナイト」をもってくると映画としての「格」が数段落ちるのは仕方ありません。
そもそも「ダークナイト・ライジング」は「ダークナイト」より「バットマン・ビギンズ」との関連性の方が深いので、 頭に「ダークナイト〜」とつけるより、「バットマン〜」とつけた方が良かった気がしますね。
どちらにしても二作目が偉大すぎるため、ダークナイト・トリロジーと呼ばれたと思いますが。。
クリストファー・ノーランが創り上げたシリアスな作品世界
クリストファー・ノーランがコミック映画全体にもたらしたある意味最高で、ある意味最悪な革命といえば、作品の描き方をシリアスなトーンにしたことです。
「バットマン・ビギンズ」の頃からこの手法で撮られていましたが、それが顕著になるのが「ダークナイト」です。
しかしこれはヒース・レジャーの文字どうり命がけの怪演のおかげで成立したと言ってもいい作品で、次作の「ダークナイト・ライジング」は重くて暗くて、やたら大げさな感じの映画になってましたね。
2019年公開のトッド・フィリップス監督の「JOKER」を見た時は、ホアキン・フェニックスの怪演もすごいのですが、 作品全体に漂う危うさにホアキン・ジョーカーの凄みがプラスされて特別な作品になったと思います。
しかし「ダークナイト」の場合は、ヒース・レジャーのジョーカーに作品が完全に引っ張られてるんですよね。。
ヒース・ジョーカーが出ていない場面でも、常に彼の影を感じながら話が進行してますし、 主役は誰かと言われたら明らかに「ジョーカー」でしたから。。
よって、シリアス・トーンでの語り口は成功したかと言われると、かなり疑問符がつきます。
この後の「マン・オブ・スティール」以降のDC作品が一時期低迷した原因は、明らかに「ダークナイト」的世界観をひきずったせいですし、暗いスーパーマンを見て誰がうれしいんだ!.....っていう話ですよね。
逆に「ウィンター・ソルジャー」くらいから、MCU作品がシリアスさをうまく取り入れて人気を不動のものにしましたが、やはりマーベルはサジ加減を調整するのが絶妙です。
DCは「アクアマン」以降明るい映画路線に切り替えて成功してますので、しばらくはこの路線でいってもらいたいですね。
歴史的怪演!ヒース・レジャーのつくりあげたジョーカー
「ダークナイト」とか「バットマン」とかよくわからないっていう人でも、「ダークナイト」のジョーカーを見て何も感じないっていう人はほとんどいないでしょう。
それほどヒース・レジャーの演じたジョーカーが映画史に残る怪演であることに異論はないでしょうし、「JOKER」でホアキン・フェニックスが演じたジョーカーも、絶対このヒース・ジョーカーを意識していたことに間違いはないでしょうから。。
この役を演じるにあたり、ヒースは精神病院に入っていた男の心になりきろうと思い、6週間汚いモーテルにひきこもり、ジョーカーという人物になりきろうとしたそうです。
そこで創りあげたジョーカーのキャラクター設定が
★口尻をナイフで切った裂け目にしたこと
★ジョーカー自らがしていると思わせる印象的なあの下手くそメイク
★独特な喋り方
.....などを創りあげたそうです。
この特徴は、私たちが夢中になっているジョーカーのイメージと重なりますね。
これだけキャラクター設定から関わっているということは、「ダークナイト」自体がジョーカーによって特別な映画になっていることを考えると、ヒース・レジャーが「ダークナイト」という作品を歴史的映画に導いたといっても過言ではない気がします。
それがジョーカーの登場しないビギンズとライジングのイマイチ感にあらわれてもいますが。。
ヒースが命がけでつくりあげたジョーカーは、映画史における悪役キャラクターの中で燦然と輝く存在ですし、 ジョーカーを演じることが俳優にとってキャリアを脅かしかねない存在にしてしまったくらい凄いものですからね。
ジョーカーという存在になる前の物語とはいえ、同じような次元で演じたホアキンは、やはり怪物です。
アメコミ映画の「格」を一気にあげた「ダークナイト」
半分以上ヒースのおかげということを差し引いても、やはり「ダークナイト」はすごい映画で、 アメコミ映画とかヒーロー映画でこれほど政治的なテーマや哲学的思想を入れ込んでいるという部分で衝撃を受けました。
まさかバットマンを見に行って、倫理観を問われるとは思ってませんでしたから。。
この作品を見て、映画好きの人もヒーロー映画をチェックするようになった人は多いのではないでしょうか。
ティム・バートンのバットマンや、サム・ライミのスパイダーマンのように、デートムービーとして気軽に見に行くものだと思っていたアメコミ映画が、ひとりでも見に行きたくなるような映画にランクアップさせた感じがします。
空前の大ヒットとなったアメリカで、この作品がアカデミー作品賞にノミネートされなかったことが大ブーイングとなったことで、アカデミー賞のノミネート作品が5作品から10作品以下に変わったというのも有名な話ですよね。
文字通り歴史を動かした作品としても語り継がれることになったのです。。
バットマン役クリスチャン・ベールの無駄遣い
このシリーズでバットマンを演じたのが、今をときめくクリスチャン・ベールです。
ヒース・レジャーに全然劣らないほど素晴らしい俳優ですが、このダークナイト・トリロジーでは全然印象ないですね。
ノーラン監督の前作にあたる「プレステージ」を見た時、クリスチャン・ベールの演者としての才能に驚き、その後も「アメリカンハッスル」や「バイス」などで印象深いキャラクターを演じ、今年公開の「フォードvsフェラーリ」を見たら完全に「俺たちのクリスチャンベール!」になっていましたから。。
そんな素晴らしい俳優がダークナイト・トリロジーでは全くダメなんですよね。。
ただ、そもそもバットマン=ブルース・ウェインは性格的にも主人公ぽくないので、描き方がどうしても地味になりがちですので仕方ないのでしょうか。
90年代のバットマン・シリーズでバットマンを演じた、マイケル・キートンやジョージ・クルーニー等のちに凄い俳優になる人たちも、バットマンではあまりインパクトを残せてないので、バットマンというキャラクター自体が損な役なのかもしれないですね。
ひきこもりの大金持ちですし、立場的に誰も共感できないキャラクターだから仕方ないのでしょうか。。
リブートの難しさが露骨に出た第一作
このダークナイト・トリロジーで、明らかにほかの二作より出来が悪い「バットマン・ビギンズ」。
この作品をバットマンに何の興味もない人がネットフリックスなどで見たら、途中で見るのやめてしまうレベルですね。
正直、前半の影の同盟の部分、つまらないです。。
バットマン初心者に興味を持ってもらおうという配慮が全然ない気がします。
渡辺謙さんが無駄使いされてますし。。
ゴッサムシティに戻ってからは、少しはエンタメ度があがって見られる作品になってますが、やはり全体的に地味なんですよね。
最大の敵がリーアム・ニーソンというところがまず渋すぎですし、ルトガー・ハウアーも全然使いきれていないし、 悪者で存在感があったのはキリアン・マーフィーくらいでしょうか。
マイケル・ケインやモーガン・フリーマンも「ダークナイト」の方がより魅力的ですし、そもそも最初の二作で鍵となるキャラクターのレイチェルとの関係がイマイチぼんやりした描かれ方なのが腑に落ちないんですね。
ヒーロー映画としての派手さが全然なく、ただのB級アクション映画という感じですし、 正直、ストーリーをあまり覚えていなかったくらい印象の薄い作品です。
「ダークナイト・ライジング」で調整したことによって、何とか存在価値が出た一作という感じで、 この記事をかいていなければ二度と見ていなかったかもしれない作品でした。
前作の凄さに押しつぶされた第三作
一作目はかなりディスりましたが、この「ダークナイト・ライジング」に関しては、そこまで不満はありません。
それは何かといったら、ふたりの女優さんのおかげです。
まずは、アン・ハサウェイ演じるキャットウーマンがカッコ良かった!
顔的には猫っていうより犬っぽい顔ですけど。。
今までのキャットウーマンは、やたら色気で誘惑する峰不二子的キャラクターでしたが、このキャットウーマンはあっさりしていて悪党加減もほどよく、 最終的に一緒に戦うのも流れ的に無理な感じがしなかったです。
アン・ハサウェイの特別ファンというわけでない私も、このキャットウーマンのスタイルや立ち姿には魅了されました。
もう少し出番を増やしてほしいくらいでしたが、正直、あの「穴蔵」のシーンはもっと削って、 キャットウーマンを見せてほしかったですね。
もう一人の女優、マリオン・コティヤール演じるミランダも素晴らしかったです。
ネタバレしますのであまり言えませんが、彼女の役まわりは美味しかったですし、 オスカー女優さんなので、あの切り替わる場面などうまかったですね。
そんな二人の女優の活躍をもってしても、イマイチぐだぐだ感が否めないのは、すべてあの「穴蔵」でのシーンだと思います。
あれがなければストーリーが展開しないのでしょうが、ちょっと長く感じましたね。
「バットマン・ビギンズ」の影の同盟の部分もそうでしたが、長く感じるというのは、 そのシーンがおもしろく描かれてないからなのですよね。
最後の警察vs犯罪者軍団のシーンも、人が多いだけで迫力不足でどうでもいいし、 音楽だけ盛り上がっていて、どうして悪者なのに正々堂々殴りあうのかなど、いろんな疑問も浮かびイマイチのれませんでした。
メインのヴィランであるベインの描き方もイマイチでしたし何より、、長いですよね。
「エンドゲーム」の3時間は長く感じませんでしたが、この映画の165分、長かったですね。。
結局ノーランにバットマンはあわなかったのではないか?
「ダークナイト」が傑作になったのは、ヒース・レジャーの怪演というのがすごく比重をしめていて、 そう考えるとクリストファー・ノーランがバットマンに及ぼしたものって、ただただ暗いってことだけな気がしますね。
たとえば「ダークナイト・ライジング」なんて、ロビンのキャラクターがああいう感じでなく、 もっとブラックなユーモアの要素を入れた方が、エンタメ度が高くなって、 おもしろいアクション映画になっていた気がしますし、「バットマン・ビギンズ」は.....あれはどうしようもないですね。
その後プロデュースで関わった「マン・オブ・スティール」への影響などを考えたら、 絶対「負」の要素の方が大きかった気がします。
やはりノーランは、弟と一緒に作ったオリジナル脚本の方が、映画として全然おもしろいですし、 ダークナイト・トリロジーをのぞけば、わりと好きな監督の部類に入りますから.....「インソムニア」は除きますが。
昨年「JOKER」を見た時、アメコミ映画って概念があの映画からは1ミリも感じませんでしたが、 見終わってすぐに「ダークナイト」を見てみたら、思いっきりアメコミ映画って感じでしたし、 やはりそういう娯楽映画としての制限のある状態で撮った作品ですので、 ノーラン監督の良さが50%くらいしか生かされなかった気がします。
結果クリストファー・ノーランは「ダークナイト」によって巨匠への道が開けましたが、ノーラン監督なら遅かれ早かれそうなっていたと思うし、 バットマンに関わらなくても良かった気がしますね。。
コロナの影響で予定が変更するかもしれませんが、2021年公開予定の「ザ・バットマン」は、 「クローバーフィールド」やリブート版の「猿の惑星」のマット・リーヴスが監督ということで、 一定のクオリティは保証できるのではないでしょうか。
予告編を見るとワクワクしますが、あまり期待しすぎず、フラットな気持ちで見に行きたいと思っています、今のところ。。