狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

異端の鳥/人間の恐ろしさをリアルに描いたまぎれもない大傑作

チェコ・スロバキアウクライナ合作映画で第76回ヴェネツィア国際映画祭におちてユニセフ賞を受賞した作品「異端の鳥」。

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上映時間が3時間ということで、なかなかハードルが高い作品ですが、、まぎれもない傑作です。

ホロコーストから逃げてきたユダヤ系の少年が、様々な差別や迫害にあらがいながら強く生き抜いていく姿を描いた作品で、暴力描写がすさまじいというほどではないですが、すごーくリアルです。

少年が過酷な現実をサバイブする映画といえば、昨年公開された「存在のない子供たち」という作品もすごかったですが、この「異端の鳥」は少年がユダヤ人であるため、捕まったら死に直結するという恐怖も待ち受けているので、さらにギリギリの生き残りを要求される映画ですね。

この作品、第二次大戦中の東ヨーロッパのとある町という設定ですが、現代でも世界中に存在しているであろう話で、人間が生まれながらにもっている残虐性や差別などの「人間の暗部」をまざまざと見せつけています。

この作品に登場する農民たちは、大半が底意地悪くて、相手が子供でもおかまいなしに集団で暴力をふるいますし、「悪魔の子供だ!」とか理不尽な理由つけて、ウ○コまみれにさせられたり、本当に見ていてキツい映画でした。

私も小学校入学を前に田舎に引っ越した経験がありますが、昭和の田舎の人はよそものに対して全然ウェルカムではなかったし、部落差別なども存在したり、村八分っていうのを実感したこともありましたね。。

この映画の世界はフィクションなのですが、出版当初、原作者のイェジー・コシンスキが自伝的小説というのを匂わせていたせいで、本当の話だと思われていたようですし、実際、リアルに感じる部分が多々あります。

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ヘビーな部分がピックアップされがちな作品ですが、この作品は9つのエピソードにわかれていて、ストーリーがつながってはいるのですが、独立した話としても見ることができて、ひとつひとつの話にそれぞれテーマが与えられています。

まず最初の話「マルタの章」は冒頭からエグいシーンが出てきますが、それ以降は全体的に静かですが、最後にあっと驚くことが起きて、別れと同時に少年の冒険...というか悲劇がはじまっていくお話です。

2番目の「オルガの章」は農民たちから理不尽な暴力をうけたり、少年が熱が出て土に埋められたりして、ポスタービジュアルにでているカラスの場面があったり、全体的に我慢、我慢、我慢って感じのエピソードです。ここは見ていてつらかったですね。

3番目の「ミレルの章」は嫉妬深い老人・ミレルの話で、全体的にうっすらと緊張感が出ていて、最後老人のとんでもない行動に驚かされるスプラッターテイストの入ったお話です。

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4番目の「レッフとルドミラの章」は鳥商人のレッフと性欲丸出しの女性ルドミラが描かれ、ちょっとエロモードで橋やすめ的な章なのかなと思っていたら、これまた最後とんでもない展開になり、嫌なものが腹にたまるお話です。

この章で、原作のタイトルでもある「Painted Bird」の場面が登場します。

レッフがペイントした鳥を空に向けはなすと、仲間の鳥たちが集まってくるのですが、違う模様の鳥を見て、仲間でないことを感じた鳥たちが襲い始め、結局その鳥はボロボロになって地面に落ちてしまうんですよね。

この作品を象徴するシーンで、人間社会の構図をまざまざと見せつけているようで、説明過多でなく映像を見せるだけで、メッセージを伝えるという心に残る名シーンでした。

5番目の「ハンスの章」は少年が捕えられてナチスに売られてしまうお話です。

このお話は、出てくる大人みんな下衆野郎で、これも見ていてツラい話でしたが、最後、、ほっこりさせられました。

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6番目は「司祭とガルボスの章」で最初はハーヴェイ・カイテル演じる心やさしき司祭にひきとられ、やっと落ち着けるのかな...と思いきや、ひきとられた先の家のジュリアン・サンズ演じる男に性的虐待を受けるというとんでもないお話です。

これもなかなかキツい話でしたが、最後は意外とスッキリした展開が待っていて、、、あ、でもそのあとまたキツい場面でてきますね。

7番目は「ラビーナの章」で欲求不満の女に、違う意味での性的虐待を受けるというお話です。

まさかのゴッドファーザー・オーマージュが登場しますが、この章を境に純粋だった少年が変貌していきます。

8番目は「ミートカの章」でソ連軍に少年が戦争孤児として保護される話で、個人的には一番好きな話でした。

無口な狙撃兵のミートカに少年がついていって「エッ!」っていう展開が待っていますが、西部劇的なハードボイルドな感じでカッコよかったです。

ミートカを演じたバリーペッパーが実に渋かっこいい演技でした。

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そして最後9番目の「ニコデムとヨスカの章」ですが、ここで少年が変わり果ててしまった行動に出るんですよね。

この作品、順撮りであったらしく、あきらかに最初の方のシーンと少年の顔つきが変わっているんですよね。

そしてある男が登場するのですが、変わってしまった少年は一体どうするのか、、というお話です。

この作品、モノクロの映像がとにかく美しいんですよね。

しかもモノクロということもあり、生々しさやリアルさが増大していて、緊張感ある映像になっています。

また音楽がエンドロールくらいしか記憶なくって、セリフも究極というくらい最小限しかなく、ほぼ映像のみでストーリーとメッセージを語ってるところが凄いですし、監督の力量をヒシヒシと感じます。

上映してるところが少ないのですが、機会があったら映画館で見て欲しい作品です。

心にズドンってのしかかる映画で、長いのですがもう一回劇場で見たい、それくらい今年見た映画の中でもかなりダントツ上位の作品でした。おすすめです。

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