狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

ばるぼら/手塚治虫のもうひとつの顔を堪能でき、二階堂ふみの魅力にあふれた作品

手塚治虫原作の漫画を息子の手塚眞監督が手がけた作品「ばるぼら」。今回はネタバレでのご紹介です。

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異常性欲に悩まされる人気小説家の美倉洋介は、都会の片隅でホームレスのような少女ばるぼらに出会い、家に連れて帰る。それ以来、白昼夢のような奇妙な幻想を見たり、彼のまわりの人間が次々と不幸にあう。うすうすばるぼらの仕業ではないかと感じていた洋介だったが、彼女の不思議な魅力の虜となり、やがて破滅へと向かっていくのであった。。という展開です。

手塚治虫の原作は見る前に鑑賞したのですが、予告編のあやしさと、何より「クリストファー・ドイル撮影」というのがこの作品を見る決め手となりました。映画好きには今だに神通力のある名前ですから、すごい映像を見れるかもと思い期待して見に行きました。

で.....率直にこの映画、すべてが「70点」という感じで、全部が惜しいんですよね。良い線いっているのに、突き抜けきれていない感じがして、モヤモヤしながら見ていました。

先にざっと気になったところをあげていきましょう。

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全編にジャジーな音楽が流れていたり、ところどころに挿入されるイメージシーンの映像など、手塚監督らしらが出ていましたが、想像より幻想さやあやしさがもうひとつって感じで、このへんは予算の問題が大きい気がしました。美術がイマイチ世界観を出しきれてなく、あとからCGで足すのも、他の日本映画などを見ると、現状の日本のCG技術ではチープになりそうですから。。

難しい問題ですが、たとえばあやしさを増すために色味にもっと赤を足したり、シーンによって青みを強くしたり、もっと極端な色使いにしても良かった気がしました。「トラフィック」という作品がありますが、あれくらい場面ごとに色味をバキバキ変えて、コントラストをつけるというのもありだったんじゃないでしょうか。せっかくクリストファー・ドイルを撮影監督にしているので、彼の代表作の「恋する惑星」や「ブエノスアイレス」のようにもっとバリッと世界観をだしてほしかったです。...と、ポスター見てるとそういうの期待しますよね。

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また現代っぽさを排除して、もっと寓話的で無国籍感を出しても良かった気がします。スマホなんてこの作品にあわないと思うし、洋介が逮捕されて新聞の一面になるシーンも、今どきのスポーツ紙の感じでゲンナリしました。原作にも出てきますが、映像化するにあたり、ここは他の手法で対処してほしかったですね。

期待していた部分のあやしさも、ちょっとうすく感じました。

たとえば、洋介が女性だと思って性行しはじめると、人形だったり、犬だったりするシーンがありますが、カメラをひいて、からだ全体が映るようにしてましたが、顔や体を全部アップにとるくらいに幻想的な構図にして、妖艶さが感じられるようなにした方が良かったですね。

女優さんは二人とも色っぽくて良かったですから。。

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ただ後半の洋介とばるぼらが交わるシーンは幻想的で、漫画に出てくる絵をうまく映像に再現していて素晴らしかったです。

監督はこの主人公たちが交わるシーンを一番撮りたかったらしく、気合いが入っていたからかもしれませんが、この部分は作品の中でも突出してる感がありました。

この作品で転機になる場面ですし、ここから展開がスパークしてくので、このシーンに集中したのはわかりましたね。

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洋介とばるぼらの結婚式のシーンは、キューブリック監督の「アイズ・ワイド・シャット」のように、もう少しエロ恐ろしい雰囲気でトリッピーに撮ってほしかったです。

ギャスパー・ノエ作品のようにグルグルにまわったカメラワークにするなど幻想的に仕上げたら、いきなり警察が入ってくる展開でブツっとリアルに戻して、コントラストがとれて面白いシーンになったと思うんですよね。

ラストの山小屋のシーンも、稲垣さんの演技は良かったのですが、ばるぼらが死んでからは、もうちょっと幻想的な見せ方にしても良かったと思いました。 稲垣さんの迫真の演技と対比して、ばるぼらがダッチワイフ状態で、とてもシュールな絵に見えました。 原作どおりなんですが、ここももっと脚色して良かったと思います。

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どうでもいい事かもしれませんが、洋介がかけてるサングラスの形が妙にダサいというか記号化されたものであったのが、凄くノイズを感じました。
売れっ子の作家なので、もっと高級感あるセンスのいいメガネしていそうなのに、何故あんなとってつけたようなサングラスだったのか理解できませんでした。

ストリートのステッカーの貼り方や、洋介のランニングシャツなんかもそうなのですが、ディテールのところがちょっと大雑把な感じがしました。もう少し細部をつめるか、もしくは寓話的世界に振り切ってた方が良かったですね。

リアルとフィクションの中途半端加減がこの作品を象徴している感じがしました。 ハリウッド作品では絶対ありえないですからね。

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自分が好きな世界観の映画だけに惜しく感じて、さんざんディスってしまいましたが、映画自体は面白かったです!特に主演の二人が良かったです。

二階堂ふみさんは、本当にいい女優ですね。 園子温監督の「ヒミズ」が好きなので、主演の二人の作品は極力チェックしているのですが、二階堂さんは「私の男」が好きですね。あのエロい感じが良かったです。キテレツ系の役より色っぽい役の二階堂さんの方が好きですが、両方できる女優ですし、その二つがあわさったようなばるぼらというキャラクターは、まさにハマり役って感じで良かったですね。

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そして稲垣吾郎さん。

稲垣さんといえば三池崇史監督の「十三人の刺客」のとんでもない暴君の役が最高でしたね。

もともと風貌が作家っぽいだけに、作家役ということで当たり役ですし、堕ちてからの後半の彼の演技は良かったです。運命に翻弄されながらも、身を任せている感じが出ていました。

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また脚本も素晴らしかったです。映画を見終わった後に原作を読んだのですが、映画としてのまとめ方が秀逸でした。原作のいいところを抽出し、なおかつ映画的に仕上げた脚本に感じました。手塚治虫さんの原作は当然ですがもっと漫画っぽく、ばるぼらもじゃじゃ馬キャラという感じですが、あやしい女性、魔女っぽさを強調したキャラクターに仕上げたのが良かったですね。

手塚眞監督が満を持して撮った作品で、本当はもう少し予算がでて凝った美術にできたら良かったのでしょうが、現状日本で撮れる作品ではすばらしい部類に入る作品ですし、なにより、二階堂さんが演じたばるぼらのキャラが、良かったですからね。
是非見て欲しい作品です。

 

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