狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

TENET(テネット)/またも映画の可能性を広げた天才ノーラン監督の最新作

待ちに待ったクリストファー・ノーラン監督最新作「TENET(テネット)」。

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ウクライナオペラハウスでテロ事件が勃発。

現場に突入した特殊部隊員の男は、捕らえられて毒を飲まされるが、毒はいつの間にか鎮静剤にすり替えられていた。

その後未来から「時間の逆行」と呼ばれる装置でやって来た敵と戦うミッションと、未来を変えるという謎のキーワード「TENET(テネット)」を与えられた彼は、第3次世界大戦開戦の阻止に立ち上がる。。

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久しぶりにツワモノ映画を見た!という感じでした。。

アート映画でなく完全なエンタメ映画でありながら、こんなツワモノ作品を撮るあたり、やはりノーラン監督、恐るべし!

予告編の車が逆行する映像は「マトリックス」の銃弾スローモーションシーンを見た時が甦るくらい衝撃的な映像でしたが、 この作品は(二度以上見る前提ですが)初見の時は理屈を考えず、単純に出てくる映像を楽しんだ方が良いですね。

ストーリーを必死になって完全に把握しようとすると、せっかくの凄い映像を十分に楽しめないかもしれませんから。。

鑑賞する前にパンフを買った作品など久しぶりでしたが、作品を見てからじっくりパンフを見て、 ストーリーの解説を読んで大まかに把握ができたので、上映中は夢中で映像を楽しんで正解でした。

私の場合「インターステラー」くらいから、ノーラン監督の映画は理屈で考えて見ると作品を楽しめなくなるので、 単純に出てくる映像を楽しもうと決めていて、前作の「ダンケルク」は歴史物ということもあって特にストーリーは複雑ではなかったのですが、基本、ノーラン作品は二度以上見ることをおすすめします。

ひとつ、今回の作品で重要な要素をとりあげると、予告編などにも出てくるように時間を逆行するという行為が出てきますが、この要素は数カ所程度、作品のエッセンスの一部であると思っていましたが、作品全体にかかわる最も重要な要素となっていました!

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ということで余計、理屈で考えて見ると、頭がパンクします。。

英語力がないのにネイティブの英語を通訳しようとしているのと同じですので、 単純に映像を楽しむのが一番です。

今回も理系の人が見たら、ツッコミどころは満載なのかもしれませんが、 IQ普通の私のようなものが見たら絶対ワクワクしますね。

ノーラン作品といえば、アクションシーンがイマイチとよく言われますが、 今回はとにかく他の映画で見たことのないような映像ですので、アクションがどうとかっていうレベルではないんですよね。

とにかく、時間の順行と逆行が同時に行われる戦闘シーンなどは、とにかく凄すぎて笑っちゃうレベルですので、この作品は一見の価値ありだと思います。

ひとつポイントをあげるならば、タイムワープのように時間軸を行ったり来たりするわけではなく、行って戻ってきます。

ワンウェイです。

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よくSF映画などで過去にタイムワープすると、未来が何通りにもなり、数えきれない世界に広がったりしますが、この作品は逆行するだけですので一通りしかありません。

過去を変えに行こうという意識で動いても、実はもう過去ではその行為はなされていて、 あらかじめ決められた行動をしているにすぎないんですね。

知らない間に未来の自分が同じ時間軸の中で活動しているというのも 混乱しますが、これを知っていると作品の冒頭から全く見逃せなくなるので、知っていて損はしないと情報です。

またこの作品、音楽が非常にカッコいいです!

ノーラン監督の映画音楽といえばハンス・ジマーのイメージですが、今回は同時期に大作を何本もかかえていたために手がけられず、ルートヴィッヒ・ヨーランソンが手がけることになったのですが、彼は「クリード」や「ブラックパンサー」などのライアン・クーグラー監督作品で音楽を手がけている人で、チャイルディッシュ・ガンビーノの音楽面での相方でもあるんですよね。

グラミー賞をとった「ディス・イズ・アメリカ」も彼とチャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローバーとの共作ですし、実力者であることに間違いはありません。

この作品でも全編にずっとテクノっぽい音が流れていて、ダンスミュージック好きの人には結構アガる映画なのではないでしょうか。

そしてこの作品で一番印象に残ったこととして、主演のジョン・デヴィッド・ワシントンが凄くスクリーン映えしていたということです。

「ブラック・クランズマン」の時は役柄的なことや、作品全体のトーンがスパイク・リー全開の感じということもあり、 あまりスターオーラのようなものは感じなかったのですが、この作品で映し出される彼の姿はすごく説得力がありますし、 スーツの着こなしもカッコ良く、確実にこの作品でスターダムにのしあがることを感じさせます。

それくらい画圧.....というかスクリーンから凄いオーラを彼には感じました。

大方の人が一度見ただけでは理解できないでしょうし、映画好きであれば絶対二度以上見に行く作品だと思います。

 

ストーリーを完全に把握しなくても、鑑賞中から凄い映画オーラを感じられますし、何度も言うようですが単純に今まで見たことのない映像が目の前で繰り広げられるので、何度も見てしまいそうですね。。

今回は2DだったのでIMAXで絶対見たい作品ですね。

 

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海辺の映画館―キネマの玉手箱/監督・大林宣彦の遺言的作品

偉大なる映像作家・大林宣彦監督最後の作品「海辺の映画館―キネマの玉手箱」。

 

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尾道の海辺にある映画館「瀬戸内キネマ」閉館の日、最後の上映は日本の戦争映画大特集であった。

その映画を見ていた3人の若者が、突如として劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ「映画」の世界に入り込んでしまう。

戊辰戦争日中戦争沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島にたどり着いた彼らは、そこで出会った移動劇団「桜隊」の人々を救うため、運命を変えるべく奔走するが.....という展開です。

大林監督といえば、やはり尾道三部作のイメージが強いですね、、あと「ねらわれた学園」も結構好きでした。

テレビでよく放送されていて、作品も当時のアイドルなどが出演して日常の風景に少しSFやファンタジックなものが入った作品が多く、とても見やすくて親しみのある監督でした。

大林監督自身もテレビによく出てましたね。

さびしんぼう」で使われていたショパンの別れの曲は、あの当時の自分とも重ねあわせられて思い出の曲です。

また「青春デンデケデケデケ」は、日本の青春映画のベストテンなどに入ってもおかしくないくらいの傑作でした。

と、そんな身近すぎることもあり大林監督の作品を映画館で見る機会がなかなかありませんでしたが、監督が余命三か月の宣告を受けながら撮ったと聞いて「花筐/HANAGATAMI」を公開時に見に行きました。

そして大林監督ってこんな凄い作品をつくるのか!とビックリして、そのあとに「この空の花/長岡花火物語」と「野のなななのか」を続けて見て、さらに驚かされました。

メッセージが凄すぎて、こんな凄い作品を見ていなかった自分に腹が立ちました。

そして今回のこの「キネマの玉手箱」です。

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これまで以上に凄かった!

「スパイダー・バース」と「ホーリー・マウンテン」を足して「マーズ・アタック」をふりかけたような驚きでした。

スクリーンから出てくるエネルギー量が巨大すぎるし、いつ死ぬかわからない弱りきったカラダで、このパワーあふれる作品とは信じられません!

この作品は大林監督のある意味集大成でもあり、「遺言」と言っていい作品だと思います。

直近の作品でも戦争についてずっと語っていましたが、この作品は直接戦争を描いてますからね、、しかも大林流

果てしない情報量と遊び心もふんだんで、見る人を完全に選ぶ映画です。

私の世代のように大林作品の独特のチープ感をわかっている人ならまだしも、上映時間も長いし、最近の普通の語り口の映画しか見ていない人にはキツい作品でしょう。

実際、劇場のあちこちでイビキもきこえてきましたし、外に出てもう戻ってこない人もいましたね。。

我が道をひたすら突っ走るという点では、デヴィッド・リンチの「インランド・エンパイア」にも感覚的に近い気もします。

しかしリンチやキューブリックみたいに、客を混乱させようという思いは大林監督にはないでしょうし、実際メッセージはガンガン突き刺さるし、情報量や遊びの部分を気にしなければ、全然わかりやすい映画ですから.....多分。

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また歴史好きだったり、江戸時代からの日本の歴史をわかっている人なら、楽しめると思います.....多分。

この作品を見て、戦争の恐ろしさが伝わるかといわれると微妙ですが、最近、日本でも戦争を描く作品がヒロイックになっている傾向があり、時代が右寄りになっているという危機感から、大林監督はこの10年くらいずっと戦争についての映画を撮っていますよね。

私の世代でも戦争を体験した人の話をちゃんときいてるか、きいてないかで戦争に対する意識が全然違いますし、中国や韓国の台頭で偏ったナショナリズムをふりかざす人が多くなってきていますが、この作品でも、戦争によって生み出される悪人を描いていますし「国」ではなく「人」が重要なんだってことが凄く語られていますね。

上映一時間ほどで、この作品の見方.....というより作品同様、観客も映画の世界に入り込んでしまうので、情報量の多さも気にならなくなりますし、第二次大戦のことを描くようになってからは、わりとストレートに展開して、戦争に対する怒りを直接的に表現していて、監督の命をかけた最後のメッセージといった感じで涙なしには見れませんでした。

キャスト的にはこれまで大林作品に登場した俳優が集結しオールスター感がありますが、大林作品といえば、、、やっぱ女優さんですよね。

常盤貴子さんや山崎紘菜さんなど「野のなななのか」からの大林作品常連の女優さんはもちろん、二人の初登場の女優さんが良かったですね。

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作品のキーとなるキャラクターの紀子を演じた吉田玲さんは、これが初出演作らしいのですが、ノスタルジックな雰囲気があり大林作品ぽさが凄く出ています。

モノクロのパートで、彼女が船から降りて自転車をこぐシーンは「さびしんぼう」のシーンと重なってすごく雰囲気が出ていますし、大林作品の幻想感を体現している女優さんでした。

そして、もうひとり成海璃子さんがいいですね。いいツラがまえです!

女優さんだなーという雰囲気で、常盤さんと共通してる感じがします。

年齢よりいい意味で大人っぽいですし、俗っぽい日本映画にはあまり出なさそうなので、ちょっと注目したいです。。

とにかくエネルギーをつめこんだような作品で、こんな映画を作れるのは大林監督だけですし、商業映画でこれだけ好き勝手にできる人、、というか許される人ってほとんどいないですからね。

この作品でエグゼクティブプロデューサーを務めた奥山和由さんが、出資側との契約上では「2時間以内の尺」っていうのが絶対条件だったところを、「カットできるところがない」という理由で、プロデュース歴初の契約違反を覚悟して完成させたらしいのですが、あの百戦錬磨の奥山和由にそんなことさせること自体凄いですし、大林監督の偉大さが伝わる逸話ですね。

できれば一日一度でいいので、年内いっぱいくらい公開してほしい作品です。

 

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【テネット公開記念】ダンケルク/クリストファー・ノーランが新しいステージに突入した快作

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戦場からの大脱出を描くノーラン流戦争映画「ダンケルク」。

 

第二次世界大戦初期の1940年、ドイツ軍の攻撃にあい撤退を余儀なくされた英仏40万の兵士たちは、フランス北端の海辺の町ダンケルクに追いつめられていた。

遠浅の海岸で大きな船が碇泊できないことから、英国政府は民間船に救助の要請をする。

ドイツ軍による陸海空の三方向からの攻撃を逃れ、どれだけの兵士が海を渡ることができるのか.....という展開です。

 

ノーラン監督といえば、難解な設定や時系列マジックで見る人を選ぶ傾向にある映画作家ですが、この作品は大人ならある程度誰でも楽しめる内容となっています。

戦争映画というより救出サスペンスといった趣で、サスペンス好きにはたまらない作品ではないでしょうか。

陸・海・空と三つのシチュエーションからストーリーを語っていて、特に陸におけるサバイバル描写は圧巻で、どこに行っても逃げ場のない極限状態がつづき目が離せない展開となっています。

沈む船の中に閉じ込められ溺れそうになったり、海に着水した飛行機の窓が開かなくて閉じ込めら溺れそうになったりと、手に汗にぎるサバイバル描写のオンパレードで、特に中盤のトロール船の中で繰り広げられる人間模様が印象的でした。

外からの敵の発砲と開いた穴から海水がもれてくるという極限の閉鎖空間で、犠牲になる人間を選ぶくだりは、人間の醜さが如実にあらわれていて、見ていてやるせない気持ちになりました。。

106分というノーランにしてみるとかなりコンパクトな上映時間ですが、緊張状態がつづくことを考えると適切なサイズだったと思います。

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前作の「インターステラー」はSFの皮をかぶった人間ドラマでしたが、この「ダンケルク」も戦争パニックサスペンスの皮をかぶった人間ドラマといえる作品で、緊張状態の中の様々な人間模様を、セリフを極力排し、映像と音楽だけで見せる手腕は見事で、クリストファー・ノーランが真に巨匠となったと言える作品ではないでしょうか。

実況中継的な語り口で無名の俳優が多いということもあり、抜群に印象に残るキャラクターは登場しませんが、民間船の船長役のマーク・ライランスや、ノーラン監督の最新作「テネット」にも出演している海軍中佐役のケネス・ブラナーなどのベテラン俳優たちはさすがの演技でした。

パイロットとして大活躍のトム・ハーディーが「ダークナイトライジング」同様、ほとんど顔が見えない役というのも笑えましたが、トム・ハーディーはわりとかぶりもの系が多い俳優ですよね。。

クリストファー・ノーランを意識せずに、一級のエンターテイメント・パニックムービーとして楽しめる作品で、はじめて彼の作品で万人におすすめできる作品です。

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【テネット公開記念】インターステラー/SFを身にまとった親子関係を描く人情映画

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クリストファー・ノーランの映画愛が爆発した超大作「インターステラー」。

 

近未来、地球規模の食糧難と環境変化によって人類は滅亡の危機にあった。

トウモロコシ農場を営む元宇宙飛行士のクーパーは、娘のマーフとともに解読したメッセージが指し示す場所に向かうと、そこは大昔に無くなったはずのNASAの秘密基地だった。

彼らは土星の近くで発見されたワームホールを通り抜け、人類が住める惑星を探査していた。

その計画のパイロットとしてクーパーは誘われるが、いつ戻れるのか不明なミッションに、マーフは激しく反対する。

クーパーはマーフと和解できないまま、宇宙に向け旅立つのだが.....という展開です。

 

2001年宇宙の旅」「惑星ソラリス」「コンタクト」「フィールド・オブ・ドリームス」等など.....名作へのオマージュ的要素のオンパレードで、監督念願の宇宙モノをつくりはじめたら、いつの間にか自分の好きなものだらけになってしまった、、というようにインテリのイメージの強いクリストファー・ノーランが、珍しいほど何の衒いもなく映画青年の顔を見せています。

特に「2001年」の要素は顕著で、圧倒的な五次元空間の映像も「2001年」のスターゲート・シークエンスからインスパイアされたのは明白ですし、ターズやケースなど大活躍するAIたちは完全にモノリスからのインスパイアでしょうし。。

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ただSF映画好きの私にとって、この作品で描かれるSF感はイマイチ、ワクワクしませんでした。

オマージュ的要素が強いこともあり、五次元空間以外はどれもどこかで見たようなものばかりという印象しかありませんでした。

リアルに見えることを最優先したせいか、デザイン的にアガるものが何一つなかったですしね。。

しかし、これほど長尺の映画であるにも関わらず、飽きずにラストまで見れるのは、この作品が「親子のドラマ」が中心軸に描かれているからでしょう。

壮大な宇宙を舞台にした作品にも関わらず、親子の愛がテーマになっているあたり、まさかの「スターウォーズ」オマージュまで入っているところが凄いです笑。

実際私も、劇場で見た時はまだ子供が生まれる前でしたので、そこまで深く印象になかったのですが、子供が生まれた後にビデオで見た時は号泣しました!

それくらい親子関係を軸に見ると、作品に対する評価が全然変わってきます。

その最大の要因が少女時代のマーフを演じたマッケンジー・フォイが素晴らしいということです!

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ジェシカ・チャステインの大人になったマーフもさすがの演技なのですが、この作品はクーパーと少女時代のマーフとの関係が中心軸にあるので、少女時代のマーフの印象がとても重要になってきますし、父親と離れ離れになる寂しさと、思春期くらいの時期の少女の気難しさ、あやうさを見事に等身大で演じたマッケンジー・フォイの演技が胸を打ちます。

何よりあのシャイでスレた感じの表情が最高ですね。。

そして父親モードの時のマシュー・マコノヒーが、完全に等身大で、顔をクシャクシャにして泣くシーンなど演技を超越していて、いっぱい泣かせてもらいました。

カメレオンすぎる俳優で、代表作が多い俳優ですが、こういう熱い人間臭い役のマシュー・マコノヒーもなかなか良いですね。

この作品はキャスティングが見事にハマっている印象で、ノーラン作品常連のマイケル・ケインのブランド教授をはじめ、ジョン・リスゴーのおじいちゃんや大人のトムを演じたケイシー・アフレック、子供のトムを演じたティモシー・シャラメなど、特にクーパーの家族まわりは完璧なキャスティングですね。

そしてこの作品唯一の悪役を演じたマット・デイモン、彼もさすがの演技を見せてくれました。

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同時期に上映され、宇宙に取り残されるというシチュエーションまで似ているということもあってリドリー・スコット監督の「オデッセイ」とどうしても比較しがちですが、「オデッセイ」のスーパーポジティブ・スターマンに対して、この作品での彼の同情の余地はありつつ、自分勝手すぎるネガティブ男も印象的なキャラクターでした。

良い役を演じることが多いマット・デイモンですが、こういった悪役を演じると、やはり彼の演技のうまさを再確認できますね。

この作品の起承転結の「転」を一手に引き受けたようなキャラですが、マット・デイモンの滅多に見れない根暗な悪役ぶりが見れて良かったです。

またハンス・ジマーの壮大すぎるくらい壮大な音楽も良かったですね。

SF部分のところで難解になりがちな作品ですが、感情を揺さぶる音楽が全編に流れることで、ドラマ部分への導線的役割を果たし、作品をより見やすくする手助けになっています。

劇伴として理想のカタチとなっていて、さすが大御所、恐れ入りました、という仕事ぶりです。

ノーランの作品の中でも、時間の長さは別にして、最も見やすく入りこめる作品で、あまり難しく考えなければファミリームービーとしてもギリギリ成立してる.....といった作品でしょうか。

この作品で、私の中でクリストファー・ノーランは巨匠になりました。。

 

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【テネット公開記念】インセプション/ノーラン的世界が最も堪能できる傑作

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映画史に残る傑作「ダークナイト」の次にクリストファー・ノーラン監督が創造した世界.....「インセプション」。

 

企業スパイの世界でトップの腕前をもつコブは、人が夢を見ている最中に、その潜在意識の奥深くにもぐり込んで相手のアイデアを盗むという技術をもっていた。

ある日彼は、サイトーという男から「インセプション」と呼ばれるミッションを依頼される。

それはサイトーのライバル企業の社長の息子の夢の中に入り、彼を混乱させ騙すといった内容のものだった。

このミッションが成功するれば、これまでの人生をリセットし、愛する子供のもとに帰れることを約束されたコブは、仲間を集め、ターゲットであるロバートと同じ飛行機に乗り、彼の夢の中に潜入していくのだが.....という展開です。

 

劇場で見た時は、知的風に見えるストーリーが興味深かったので一生懸命ストーリーについていこうとがんばりました.....が、正直「?」という印象しかなかったです。

レンタルでもう一度見て、なんとなく作品世界の全貌を把握しましたが、今回また見返してみて、時系列操作が最初の部分だけなので、意外とストーリーは難解ではないと感じました。

ノーランの映画すべてに言えることですが、圧倒的にカッコいい映像が、難解に見せるトリックのひとつとなっていますが、頭で理解するというより「感覚的」に見た方が、実は物語を理解でき純粋に作品を楽しめるのではないでしょうか。

IQの高い方ならともかく、私のように普通の学力くらいの方には、この鑑賞方法をおすすめします。

次々に下の階層に入っていくところがよくわからないという意見をききますが「感覚的」に見て、込み入った設定をあまり気にせず見るとより一層楽しめるということに気づきました。

ノーランの作品は、文系SFファンからは支持されるけど、理系のSFファンにはあまり評価されないらしいのですが、この作品や「インターステラー」はその典型といったところでしょうか。

理系オンチの私でも、理屈があってないと思う部分は多々ありましたし。。

ドラえもんの四次元ポケットから出てくる道具を見せられてるような映画だと思えば、単純に楽しめると思います。

 

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ただこの作品を諸手を挙げて支持することができないのは、「マトリックス」と設定が似ていて二番煎じに感じてしまうからでしょうか。

マトリックス」を見た時の衝撃が強かったので、夢の世界に入るという時点で「あれ?パクリ?」と思い、初見では作品に完全に入りきれなかった感じがします。

ただ入り口の部分は「マトリックス」そのままですが、そこからさらに第二階層、第三階層へと続いて、複雑(のように見える)構造にしているところは、さすがノーラン兄弟のアイデアだなぁと感心させられます。

特に映画後半部分では、違う場所で同時に起きている複数のシーンを交互につなぐという「クロスカッティング」といわれる映像技法を駆使して、物語に緊迫感と興奮を与えているところは見事ですね。

最も映画的醍醐味である「スリル」を見せるのが本当にうまい監督ですね、ノーランは。

映画好きが好むような「通」な映画になりそでが、それを娯楽作品に見えるようにさせている点は、何と言っても主演のレオナルド・ディカプリオでしょう。

これだけ演技がうまいのに、圧倒的にエンターテイメント作品で主役をできる俳優は、彼以外には見当たらないですね。

しかもジョニー・デップのような変装は一切しないですから。。

もちろん渡辺謙さんの演技も素晴らしく、ハリウッド娯楽作でこれだけ堂々と演技ができる日本人って凄いなぁ...とあらためて感じますね。

ある意味、この「インセプション」は彼のフィルモグラフィーの中でも最もクリストファー・ノーラン的といっても良い映画ですが、今回の「TENET」もそのノーラン臭がすごく感じられる予告でしたので、かなり期待して見に行きたいです。。

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【テネット公開記念】プレステージ/嫉妬と怨念によって展開されるドロドロ人間模様の傑作

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9月に3年ぶりの新作「TENET」が公開されるクリストファー・ノーラン

ノーランの作品といえばやはり「ダークナイト」がイメージされますが、その1本前に撮った作品で、ヒース・レジャーの歴史的怪演を引いてしまえば明らかに「ダークナイト」より映画の出来としていえば格上の作品である2006年の「プレステージ」。

久しぶりに鑑賞しましたが、やはり素晴らしい作品ですね。

最近は主人公が下衆な人間だったり、後味の悪いラストの映画がもてはやされるような時代ですが、そういった意味で「10年早すぎた」作品ともいえるのではないでしょうか?

実際私もこの作品をレンタルではじめて見た2008年くらいと今とでは、今、見ると時代的にしっくりくる部分も多いです。

また何度でも見たくなるといった意味でもサブスク時代の現代にマッチした作品なのではないでしょうか。

 

19世紀末のロンドン。

アンジャーとボーデンのふたりの若者は、あるマジシャンのもとで修行をしていた。

ある日、師匠の助手であったアンジャーの妻が水中脱出マジックに失敗し溺死する。

その原因はボーデンが結んだロープであったが、ボーデンはそれを自覚していなく、アンジャーは怒り狂いボーデンと袂を別つ。

その後、ふたりは互いのマジックショーに客に変装してショーを妨害することを繰り返しながら、激しく競い合うようになる。

ある日、ボーデンが瞬間移動のマジックで一躍有名になり、そのタネを見破ろうとアンジャーは深い仲になっていた助手のオリヴィアをボーデンのもとに送るのだが.....といった展開です。

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マジックが題材となっていて、ノーランの作品群の中では明らかに地味な映画で、ノーランが好きじゃないとなかなか見られていない作品ですが、私はそこまでノーランが好きではないのにツボにはまった作品ですね。

なにしろ主人公二人がマジックに身を捧げているとはいえ、どちらも下衆野郎!

どうしようもない下衆野郎ボーデンを演じるのはクリスチャン・ベール、同情の余地のある下衆野郎アンジャーを演じるのはヒュー・ジャックマンとキャスティングが絶妙です。

ヒュー・ジャックマンウルヴァリンのままの肉体でマジシャン?というのが少し気になりますが、彼がもってる影のあるヒーローオーラがうまくアンジャーというキャラクターに馴染んでいますね。

やってることはボーデンと大差ないのに、アンジャー視点で語られているという理由のみで、あまり下衆に見られないといったところもヒュー・ジャックマンのキャラクターによるところが大きい気がします。

でも個人的にはクリスチャン・ベール演じるボーデンの方に魅了されてしまいます。

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クリスチャン・ベールの何を考えてるのかわからない不気味なクールさにうまくフィットしたキャラクターで、ひとりの人間とは思えない二面性を持つ(?)キャラクターをあやしく演じています。

バイス」といい「フォードvsフェラーリ」といい、演技的に今まさに絶頂期を迎えている俳優ですが、彼の得意な狂気をはらんだ演技がバットマンシリーズではイマイチ活用しきれてないところが残念ですね。

歴代のバットマン俳優も、バットマン以外では凄い演技の人が多いので、やはりヒーローを演じるのはなかなか役者としては損な役割ですね。。

とにかく、この作品は一度見て、ラストでの大どんでん返しに驚いて、もう一度見直して「あ、そういうことなんだ!」ってことがわかる作品なので、分かりづらいとか、難解なイメージを持たれるのは仕方ないでしょうか。

しかし、時系列を少し操作しているだけで、話の中核はわりと単純で、二人(?)の男の嫉妬と怨念によって動いていく展開ですので、サスペンス映画が好きな方やドロドロした人間模様の話が好きな方にはハマる作品ではないでしょうか。

後半のSF的展開などお約束的なノーランらしさも全開で、私のように19世紀以前の西洋ものが得意でない方にもすんなり入り込める内容となっています。

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ただノーランの作品全体に言えることですが、女性の扱いがこの作品でも結構ぞんざいな扱いですね。。

二人のマジシャンを描いた映画で、マジックの成り立つ3つのパートである「確認」「展開」「偉業」がうまく映画全体の構成にも活用されていて、彼のフィルモグラフィーの中でも物語が一番うまく描かれている印象です。

インターステラー」くらいから、完全に巨匠扱いになっているノーラン監督ですが、「プレステージ」は彼の凄みが最初に発揮された作品と言っても良いでしょう。

地味に見られがちですが、ノーランの作品の中でも重要な一本であることに間違いはありませんので「TENET」を見る前に是非抑えておきたい作品です。

 

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【テネット公開記念】インソムニア/発掘良品感覚で見たいビッグネームが並ぶ作品

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メメント」によって注目されたクリストファー・ノーラン監督がハリウッドで撮ったはじめての作品「インソムニア」。


白夜のアラスカの田舎町で起こった少女の殺人事件の捜査のため、LA市警からドーマーとハップが派遣される。

一方、LAでは内務監察部による過去のドーマーの捜査に対する調査が進んでいて、ハップは証言を求められていた。

犯人をおびき寄せるためドーマーは罠を仕掛け、犯人を山小屋におびき出すことに成功する。

しかし、深い霧の中での追跡で、彼は犯人と誤ってエッカートを射殺してしまう.....という展開です。

 

新進気鋭の監督、面白い脚本、充実の演技陣とエンターテイメント作品として一級の作品になるはずなのですが、何か物足りなさを感じる映画という感想を初見時はもちました。

それから20年近くたって、あらためて見たのですが、やはり.....同じかな。。

主演のアル・パチーノは90年代には「セント・オブ・ウーマン」や「ヒート」などの傑作に出演し、第二のピークを迎えていたということもあり、作品の良し悪しに関わらず、充実した演技と圧倒的な存在感をかもしだしていたのですが、この作品あたりから、アル・パチーノにやや陰りが見え始めた感が当時はありました。

しかし今、見直してみると、十分「ザ・アル・パチーノ」ですね、カッコいい!

やはり彼が出演しているだけで、映画としての格が自動的にワンランクアップしますし、複雑な精神状態の男を渋く熟練の技で演じています。

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脚本も面白く、どんでん返し的なラストも含め、上質なエンターテイメントとして仕上がっています。

にも関わらず、やはり全体的な印象がもう一つ突き抜けていないという感想をもってしまのは、やはり監督がクリストファー・ノーランであるのに、普通の映画におさまっているという事が大きいからでしょう。

実際、リメイク作品ということもあり、脚本にノーランが関わっていない時点で「雇われ監督」だったことは明白で、すでにリブート版のバットマンも進行していたこともあり、イマイチ本作に集中仕切れていないのがフィルムから感じ取れるんですよね。。

脚本的には、完全に90年代的なサイコスリラーですので、当時の私には食傷気味で、当時はノーラン監督の作品ってことをあまり意識せず見たので、このマンネリスリラー感がイマイチな感想に影響しています。

逆に今見ると、サイコスリラーの部分は一周まわって新鮮に見れますが、ノーラン作品としての物足りなさの方がかなり大きいですね。

ノーラン監督の苦手なアクションシーンですが、この映画では年老いたアル・パチーノがメインですので、、編集で頑張りました!

共演がロビン・ウィリアムズということで、名優同士のコラボでワクワクして見たのですが.....奇跡は起こりませんでした。。

ロビン・ウィリアムズの犯人役がイマイチなのですが、キャラクターを絞りきれなかったのでしょうか、こんな名優が中途半端なキャラクターで、この点は初見時も見直して見ても同じ「?」という感想でした。

もしかして、食い合わせが悪いのか.....名優をキャスティングしても必ずしも良い結果にならないという典型ですね。

結局プラスマイナスの観点が微妙に違うものの、当時も今も同じような「何か物足りない...」という印象は変わりませんでした。

この作品はきっとたまたま借りてきたら面白かった!.....というTSUTAYAの発掘良品的な作品という位置付けが妥当な気がします。

その割にキャストも監督もビッグネームすぎるんですけど.....

 

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