【テネット公開記念】メメント/クリストファー・ノーランを一夜にして成功に導いた画期的作品
クリストファー・ノーランという新しい才能が発掘された作品「メメント」。
主人公レナードは記憶が10分間しか保てない前向性健忘の男で、ポラロイドで人物の写真を撮り、大切なメッセージを残すため常にメモをとり、時には身体に刺青を入れメッセージを残していた。
そんな不自由な状態の彼だが、過去に妻を強姦し殺害した犯人を探し追い求めるのだが、彼の記憶のあいまいさを利用する人物たちの妨害にあい、なかなか捜査が進まない。
果たして彼は妻を殺害した犯人を探し出すことができるのだろうか.....という展開が時系列的に遡って語られるという画期的な作品です。
アメリカでは封切り時はわずか11館だった上映館が500以上に拡大し、アカデミー賞でも脚本賞や編集賞にノミネートされるなど、興行的にも批評的にも評価されています。
日本でも公開前から映画好きだけでなく、音楽好きやファッション系などサブカル全般に話題を集めた作品で、私もこの公開前の熱気をすごく記憶しています。
一度見ただけでは、作品の全貌を把握できないという、クリストファー・ノーランという強い作家性をもった監督の登場に歓喜しました.....この作品の時点では。。
10分しか記憶がもたず、しかも時系列的にはどんどん前に遡っていくという展開に、どのようなラストが待っているのか期待と不安が交差していましたが、ある意味強引ながら、きちんと話を完結させることが凄いです。
監督の弟で、後にノーラン作品の脚本として欠かせない存在となるジョナサン・ノーランが書いた短編を元に、ストーリーを構成していったらしいのですが、そのアイデアもさることながら、これほど時系列を巧みに操った映画は記憶にないくらいの画期的な作品となっています。
長編処女作の「フォロウィング」を発展させたような部分も随所に見受けられますが、「フォロウィング」は片手間のような状態で仕上げた作品でしたので、才能ある人が完全に映画製作に没頭できると、これほど飛躍的に作品の質が向上するのだなということを感じさせてくれます。
しかも次作「インソムニア」や「バットマン・ビギンズ」のような制約からくる窮屈さは微塵も感じられず、予算的な制約があるとはいえ、クリエイティブ的には出せる力が存分に出たといえるくらい、ノーランワールドに浸れる作品となっています。
何せエンドロールではクリエイティブの象徴的アーティストであるデヴィッド・ボウイの曲が使われていますから。。
この後「インセプション」や「インターステラー」でも新しい映画的なアイデアが登場しますが、衝撃度だけでいえば今だにこの「メメント」が一番な気がします。
ビデオがレンタルされた時、時系列的に並べて見たかったので、作品終わりから順に見ていったのですが、やはり整合性をあわせるだけの作業でしかなかったです。
時間が遡るのに映画的なダイナミズムを出すというとてつもないことをやってのけている作品で、個人的に衝撃度的に限って言えば、今まで見てきた作品の中でもトップ3には入るような作品ですね。
最新作「テネット」でも時間を使ったストーリー展開となっているようですし、「時間」というのはノーラン監督の代名詞ともなっていますね。
デビュー作から使われた時系列捜査ですが、この「メメント」はノーラン監督的にも、そして映画史的にも、最もトリッキーな「時間」の使い方をした作品といってもいいでしょう。。