レオン/ロリータ的脚本を名作に変えた3人の名優たち
現在公開中の作品「ANNA」。
リュック・ベッソン久しぶりの快作といえる作品です。
私が映画を好きになりはじめた時期に出会った監督で、個人的になかなか思い入れがある映像作家でもある彼が、ある映画的手法を用いて自身の王道アクション映画を新鮮に見せた作品。
まさかの復活に嬉しい限りです。
そんなリュック・ベッソンの名を日本で一躍有名にした作品が「レオン」。
今まで映画ファンだけのものだったリュック・ベッソンが、一般層にも少しは認知されるようになった作品です。
前作「ニキータ」で映画後半重要なところで登場したジャン・レノ演じる掃除人ヴィクトルを、監督本人がお気に入りのキャラクターだったこともあり、彼をレオンという新たな人物として再構築し制作された作品です。
リュック・ベッソンとしては当初「ニキータ」の続編をつくる予定だったこともあって、珍しく同じ系統の作品が続いたわけですが、それによってアクション演出に磨きがかかり、ラストのレオンと警察との対決のシーンなど、当時としては画期的なアクションがいくつか生まれています。
現実離れしたランボーとは違い、リアルな特殊部隊的戦闘描写になっていて、この手のアクション映画が一気に広がったきっかけにもなった映画です。
リュック・ベッソンの作品としてはじめてアメリカ資本が入った映画ということで、ストーリー的にも今までよりも起承転結がはっきり描かれていますが、アメリカ的アクションが爆発している作品なのに、ヨーロッパ的な哀愁感漂うフィルムの感じなど、ヨーロッパ映画とアメリカ映画の良さがうまくブレンドされた奇跡の作品です。
この「レオン」をリュック・ベッソンのNo.1にあげる方は多いでしょうし、リュック・ベッソン=アクションというイメージが本格的にスタートした作品です。
現代を代表する大女優ナタリー・ポートマンのデビュー作でもあり、「キッズムービーでデビューするのではなくアート作品から世に出たかった」と当時12・3歳の彼女はインタビューで語っているとこが、、脱帽ですね。
普通の子供が言ったら全く説得力ありませんが、この映画、ジャン・レノやゲイリー・オールドマンとともに、彼女抜きには為し得なかった作品ですし、十八番の泣き顔芸はこの時点でほぼ完成しています。
ジャン・レノとのコンビネーションもバッチリで、歴戦の俳優たちの中に入っても臆することなく堂々と演じているように見えます。
まだ子供だったこともあり、撮影に両親が同行しており、親の前でこれだけの演技が出来るのですから、今の彼女の映画界でのポジションも肯けますよね。
またゲイリー・オールドマンという稀代の名優が覚醒した作品でもあります。 もちろん「シド&ナンシー」の頃から注目されていた俳優ですが、この作品を境に彼の本格的な快進撃が始まりました。
クスリを飲んでハイになるシーンは当時「羊たちの沈黙」などのサイコスリラー映画が流行していたこともあり、トリッピーな映像でこの映画の印象的なシーンの一つとなっています。
セリフや動きなど、随所にアドリブを入れていたそうで、監督であるリュック・ベッソンのイメージを遥かに超えた凄みのあるキャラクターを創造しています。
ゲイリー・オールドマンの起用がこの作品を高みに押し上げた最大の要因であることは言うまでもありません。
実際エンドロールで最初にクレジットされるのがキャスティングを担当したTODD THALERであることから、この作品がいかに俳優たちの名演によって傑作になった映画であることを如実に表しています。
映画のクライマックスのレオンを殺すために特殊部隊を総動員させる「EVERYONE!」というセリフは当時アメリカでもかなりバズったようです。
そしてこの作品の主人公レオンを演じるのは、リュック・ベッソン監督の最初の短編映画から今作までずっと出演しているジャン・レノです。
アクションやシリアスなシーンだけでなく、彼の良さでもあるコメディっぽい演技やヒューマンな部分も満載で、当時の彼の集大成的な演技になっています。
ベッソンとしてみれば満を辞してジャン・レノを主演にしたことで、彼の良さを十二分に引き出したキャラクターを設定し、ジャン・レノとしても彼の代表作となった作品です。
最初の脚本段階では、レオンとマチルダの年齢の離れた恋愛感情が濃密に描かれていたために、これをあまり良く思わなかったジャン・レノが、レオンを内面が子供のまま成熟していない精神性をもつキャラクターに設定し、ロリコン要素を想起させないよう配慮して演じていたようです。
結局、当初の脚本はマチルダ役のナタリー・ポートマンの両親からNGが出たため書き直されていますが、それでも完全版ではレオンとマチルダがより恋愛感情をもっていたようなカットが挿入されています。
ベッソンが少女との恋愛に固執したのは理由があり、この映画が撮られる数年前に、32歳の妻子のいたリュック・ベッソンが当時15歳のマイウェンという女性と肉体関係を持ち、子供ができたことで二人は結婚したのですが、そのことがかなりこの作品に影響されているのです。
公開当時感動した私としては、この裏話は聞きたくなかった話ですし、映画の完全版も見なくて良かったヴァージョンでした。
現在ふたりの子供をもつ母親であるナタリー・ポートマンも「子供にどう見せたらいいのか分からない」と今ではかなりこの映画をご立腹のようです。。
私見では、レオンとマチルダの関係は親子や恋人、友人などの全ての要素を含んだ「かけがいのない存在」として見れば良いと思います。
そういった逸話がこの作品の評価に影を落としているのも事実ですが、この「レオン」という作品は、映画史の一ページに名を刻む魅力的な作品ですし、これ以降、迷走していくリュックベッソンの「頂点」である作品ではないでしょうか。