狂った朝日 と 汚れた血/映画部

映画や海外ドラマに関するレビュー及び思い入れのある作品について語ったり、それに付随した思い出・ライフスタイル情報を提供いたします。

ミッドサマー/モラルを揺さぶる眩しすぎるホラー

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アリ・アスター監督の「ミッドサマー」、みなさん見ましたか!?

「パラサイト」からはじまった私の2020年の映画鑑賞は、コロナ中断はあったものの、アカデミー関連を中心に年初から傑作揃いで近年稀に見る充実ぶり

その中でも、ダントツ一位にランクしているのがこの「ミッドサマー」です。

謂わゆるホラー映画のジャンルに分類される作品ですが、お化け屋敷的な普通のホラー作品と違って、何か得体のしれない不快感と知的好奇心を激しく刺激する感覚が入り混じった作品で、思わず心の中でガッツポーズしてしまいました!

予告編を見て直感的に凄い映画がきた!と思った私は、公開初日に見に行ったのですが、、想像を超える傑作...というより怪作であり問題作でもあります。

完全に自分のツボに入った「狂った映画」で、 白夜のスウェーデンで次々と事件が起こる映画ですが、正直怖いかと言われるとそうでもないんですよね。

ショッキングな映像ではあるものの、明るいというシチュエーションなだけで全然見方が変わるということがわかりました。

ただショッキング具合は人によってはかなり強いかもしれませんので、食べ過ぎや二日酔いとかでは見ない方が良い作品です。

怖がりなので普段ホラー映画をあまり見ない私が、普通に見られたぐらいなので、グロさ以外は大丈夫な気がするのですが。。

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また映像が素晴らしかったですね、尋常じゃない白さといった趣で。

恐怖を感じるというわけではないのですが、不穏な美しさと映像的快楽を感じる映画です。

それほど頻繁に登場はしないのですが、ここぞというシーンで鳴りだす不穏な音が効果的でしたね。

音楽という点では、シガーロスがシンプルな楽器だけで演奏する曲に似ていて、北欧の牧歌的な雰囲気がかなり出ていました。

事件が起きるまでの前ふりの長さや、淡々と話が進行するところ、急に驚かせるというわけでなく、じわじわと嫌な感じで恐怖が描かれているところなど、スタンリー・キューブリックの名作ホラー「シャイニング」に通じるところも多く見受けられました。

この作品のラストシーンは見る人によって全く違う感情をもたらす危険なシーンで、カタルシスを感じる人もいれば、憤りを通り越した最上級の嫌悪感を味わう人もいるでしょう。

実際、一般の方のレビューを見ると好きか嫌いかで完全に二極化してますし、こういう賛否両論の作品って、私、大体好きなんですよね。。

人の不幸を見て喜ぶなんて、現実であれば人間として最低なのですが、これは映画であり、芸術的表現であり、モラルに対しての挑発であり、善悪を問い正す表現であり、、と色々野暮なことは抜きにして、すべてアリ・アスター監督の掌で転がされてるんですよね。

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そういう意味で、この映画は昨年後半に話題をさらったあの映画にそっくりなんです。

そうです、「JOKER」です!

「JOKER」もホアキン・フェニックス演じるアーサー・フレックが、人の心を失ってジョーカーという存在に落ちていき、町を大混乱におとしいれた時、物凄く恐ろしいカタルシスが待ちうけていました。

でもそれは、劇中のほとんどがそこに至るまでのつらい前振りで、アーサーがこれでもかというくらい世間から冷たい仕打ちにあい、憧れた人から嘲笑され、信じていたものが偽りで、愛さえ幻覚だったってことがわかった上で、人間の心が消え去ったのです。。

普通なら超バッドエンドのはずのラストが大団円になっているのですが、「JOKER」の場合は、途中から「それはいくら何でも無茶苦茶だろ!」という視点が入ってくるので、素直にバッドエンドにカタルシスを感じられずに、嫌なシコリが残ってしまうんですね、普通の人なら。

この「ミッドサマー」の場合、カタルシスを感じたという人は、主人公のダニーは劇中の悲劇的な事件やかわいそうな仕打ちに耐える健気な彼女の姿を見て、ハッピーエンドに近い形のバッドエンドを楽しんだのではないでしょうか。

私がそうでした。。

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この映画の舞台となっているホルガという村の風習は、普段の我々の日常から見ると、完全にカルトな行為にしか見えないのですが、劇中に描かれているような風習に近いものは、100年くらい前まではどこの国でも平気で行われていた行為ですよね。

都合の良い時だけ外部のものを受け入れ、慣習に従わないと罰を与えたりするのは、現在も田舎の地域では存在していることですし、日本も大きな村社会なので、外国人に対して完全にオープンじゃない気質といい、ある意味すごくリアルに感じる部分が この映画にはありました。

「JOKER」のように危ない人が見たら事件を誘発させてしまうのではないかという俯瞰した目で見られる映画ではなく、より一般的な人にもカタルシスを感じられそうな「ミッドサマー」の方が、モラル的な部分を揺さぶってる気がします。

「お前、最低の人間だな!」って言われてるようで。。

キャストの方は、主演のダニーを演じたフローレンス・ピューは、プロレス映画「ファイティング・ファミリー」で体を張った演技をしていましたし、もうすぐ公開の「ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語アカデミー賞助演女優賞にもノミネートされていました。
「ブラック・ウィドウ」にも出ているそうで今、旬な女優のひとりです。

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ダニーの彼氏を演じたジャック・レイナーは、「シングストリート」で主人公の兄役で出てる俳優で、裸一貫の演技、、ご苦労様でした。。

この作品はA24の制作なのですが、この会社の映画は良質な作品が多いですよね。

「ムーンライト」「ア・ゴースト・ストーリー」「ヘレディタリー」アンダー・ザ・シルバーレイクなど、かなり映画マニア受けする作品が多く、A24制作というだけで見に行きたくなる会社です。

「ミッドサマー」や「JOKER」など人間のモラルを揺さぶる映画が、ちょっとしたトレンドになりそうですね。

ひとつのエポックメイキングな作品によって、映画やカルチャーはどんどん進化を遂げますが、この「ミッドサマー」と「JOKER」はある意味そういった存在になり得そうですね。

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