ジョジョ・ラビット/日本人にはなかなか真似できないブラックユーモアに溢れた反戦映画
今年のアカデミー作品賞にノミネートされたタイカ・ワイティティ監督の「ジョジョ・ラビット」。
見事作品賞を受賞したポン・ジュノ監督の「パラサイト」のように、最初は完全にコメディですが、中盤から一気にシリアスになっていく作品です。
とはいっても子供が主演のお話ですので、それほどヘヴィではなく涙する場面もあり、爽快な余韻に浸れる映画です。
この作品、去年のアカデミー賞であれば、作品賞も獲れていたかもしれませんね。
それくらい今年の作品賞候補は個性の強い作品が多かったですから。。
タイカ・ワイティティ監督は「マイティ・ソー バトルロイヤル」でもレッド・ツェッペリンの「移民の歌」を使って歌詞で映画の内容を示唆していますが、「ジョジョ・ラビット」でもビートルズの「抱きしめたい」ではじまり、デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」でエンディングを迎えることで、歌詞を調べると映画の内容がうっすら見えてくるんじゃないでしょうか。
2曲ともドイツ語バージョンが使われていましたね。
ボウイファンの私としては、ラストで「戦メリ」オマージュが出てきたところがうれしかったです。
タイカ・ワイティティ監督は、主人公ジョジョがイメージする創作上のヒトラーとして出演もしていますが、ある意味このヒトラーが一番おいしく目立っていましたね。
ジョジョの母親役のスカーレット・ヨハンソンは、「マリッジ・ストーリー」での演技も素晴らしかったですが、今作も母親役ということで「マリッジ〜」の延長線上のような感じでしたが、表情豊かに、凛とした魅力的な母親を好演しています。
「ブラックウィドウ」も楽しみですが、MCU作品をやっている時期は、他の出演作もクールなヒロインを演じることが多かったですが、「マリッジ〜」と「ジョジョ」の喜怒哀楽がはっきり出たキャラクターを演じることで、抑えられていた彼女の魅力がスパークしているようで、当分はアクション映画以外で彼女を見たい気がします。
そしてジョジョの上官のキャプテンKを演じたサム・ロックウェルは「スリー・ビルボード」さながらの悪人かと思いきやまさかの...という役で、今回も印象の強いキャラクターを演じています。
サム・ロックウェルもボウイの息子のダンカン・ジョーンズ監督の「月に囚われた男」に主演していましたが、まさかのボウイつながりでの出演ってことでしょうか?
主役のジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイヴィス君も愛くるしい演技で、ハリウッド映画の子役の凄さを感じましたし、もうひとりの主役であるユダヤ人少女エルサ役のトーマシン・マッケンジーもこれからが期待できそうな女優ですね。
映画の途中で監督演じるヒトラーのセリフで「優先順位を間違えるな」とジョジョに語るシーンが出てきますが、映画を見終わった後ですと、そのシーンで語る解釈とは異なった解釈で捉えられますし、脚本も担当した監督のさり気ないメッセージを感じ取れました。
まわりの意見や慣習に惑わされず、心の自分の声に耳をかたむけ、本質を見抜くことが一番大切なんだということを語っている作品でした。
映画の後半で連合国がドイツの街を爆撃したり、銃撃するシーンが出てきますが、ドイツ軍の制服を着ていたら子供でも殺しそうな雰囲気でしたし、中東などで正義の名の下に、罪のない犠牲者をまきこむ、どこかの国を風刺しているようにも感じました。
「アメリカン・スナイパー」のように自戒的思想も入っている気がします。
日本でも「独立愚連隊」シリーズ等を撮った岡本喜八監督のように、コメディで反戦を訴える監督も過去には存在しましたが、いつの頃からか反戦を描いているのか単にヒロイックに見せようとしているのかわからない戦争映画ばかりになっていて、もっと上手に反戦の思いを描いた作品が出てくることを望むばかりです。
人によっては、この「ジョジョ・ラビット」のようなブラックユーモアの映画を受け止められない人もいるでしょうが、この映画に流れる監督のメッセージ性を十分受けとめられたので、私は完全に指示します。
スターウォーズの新シリーズの監督の候補にもあがっているようですが、今後もタイカ・ワイティティ監督からますます目が離せませんね。